零の旋律 | ナノ

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 白き断罪拠点、そこで絡の怪我している部分を夢華が丁寧な手つきで包帯を巻いていく。
 絡はむすっとした顔をして頬づえをついていた。

「どうした、何がそんなに機嫌が悪い、絡」

 怪我の治療が先に終わった白圭たちは、最後に包帯を巻かれている絡の機嫌の悪さに眉を顰める。

「勝てなかったことが悔しいわけ?」

 絡の隣で立っているのは、紫色の髪を腰まで伸ばし白き服に身を包んでいる、女性――砌(みぎり)。青い瞳が絡を見据える。
 彼女は、消毒液などを手に持ち夢華と同じく手当をしていた。

「違う、なんで白圭、あいつがここにいるんだよ」
「あいつ?」

 怪訝そうな顔をして尋ねる白圭に、絡は言葉を吐き捨てるようにいう。

「律の野郎だ! なんであんなやつがここにいるんだよ」
「律が何かしたのか?」
「……あいつ、今回の作戦を余興だといいやがった、人を殺すことを余興だとふざけたことを言ったんだ!」
「……」

 白圭は絡の言葉に黙る。
 同じ白き断罪にいて異色。それが同じ仲間の律という人物だった。

「律は確かにそういうやつだけど……」

 白圭にはそれ以上言葉が出なかった。烙にかける言葉が見つからなかった。

「だからって殺しちゃ駄目よ? 絡」

 砌が諌めるような口調で絡の頭を撫でる。
 絡が立てば砌よりでかいが、今絡は座っていて砌は立っているため砌の手は簡単に絡の後頭部に届く。

「おい、砌」
「殺しちゃ駄目よ? わかった?」
「……殺しはしないよ。そんなことは」
「よろしい」

 砌は絡の頭を撫でるのをやめて、軽く叩く。

「いてっ」
「別に痛くしたわけじゃないよ。何、それとも痛くしてほしい?」
「んなわけあるか! 条件反射だ、条件反射」
「残念」

 肩を竦める砌に、絡は軽くため息をつく。

「殺しはしないけど、あいつのことは理解できないよ」

 悲しき金色は遠い記憶を手繰り寄せる。


「別に俺のことを理解しようって思わなくてもいいよ、絡」

 彼らの前に現れたのは、絡が先ほど理解出来ないといい、さらに嫌っている存在。同じ白き断罪の一員であり、そして異色と呼ばれる人物――律
 青紫色の髪は肩で切りそろえられ、白き断罪の十字架をモチーフにしたような白いピアスではなく、同じ十字をモチーフにしたようなピアスではあるが、その色は黒かった。
 薄いピンク色の帽子を被っている。服は白いが、何処となく他の白き断罪が来ている服とは違う雰囲気を醸していた。

「律……」

 絡は律を睨む。手のひらを強く握って気を持たせないと、緩んだ瞬間に律に殴りかかりたい衝動に駆られる。

「殴りたいならどうぞ」

 そんな心境を見透かした律は、挑発的なひと言を平然と口にする。
 絡は挑発に乗らないように、ぐっと手のひらに込める力を強くする。
 此処で律を殴ってもどうにもならない。
 自制心が絡を押さえつける。

「まぁ殴りたくなったらいつでもどうぞ」

 そういって、絡の前を素通りしようとするのを、夢華が立ちあがって律の赤い瞳を見つめる。


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