零の旋律 | ナノ

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「自分が本当にききたいん、泉さんわかって……」

 泉は榴華に最後まで言葉を言わせない。

「誰が一番強いか、とかそれらを物差しで測ることなんて出来ない。条件が同じ者同士の能力差を比べることは出来ても、接近戦と遠距離を比べるのなら違ってくる。まぁ客観的にどちらが上かとなれば答えることは可能だが、それは対価の領域を超えているんでな」

 貰った対価以上のことはしない。
 これ以上泉から情報を得るためには又別の対価が必要となる。

「まぁ、それだけきければよいわ。相変わらず異常な情報能力だこと」

 最後のは泉に向けての厭味。
 決してほめ言葉ないどではない。

「これが商売なんでな」

 気になることは調べる。
 相手が知りたいことは調べる。
 そうして、生きていく。

 今までもそしてこれからも変わらない。
 信じられるのは――

「ところでいいかな? そこにいる俺以外の全員。今日は徹夜したいのか?」

 篝火の怒りの声が全員の耳に聞こえた。
 その場では篝火以外、誰も作業をしていなかった。
 一人真面目な保護者の忍耐力が限界を迎えた模様。
 泉以外は作業を再開。
 泉は一人何処かへその場から姿を消した。けれど、それをとやかくいう者はいなかった。何処にいくか、なんて予想がついていたから。



+++

 第一の街を眺めるように、一人白き影は立っていた。
 毒を含む砂が舞う場所に立ちながら、砂を白き影は全く気にしない。
 唯、街の様子を眺めているだけ
 この場所から何かが見えるわけではない。唯、由蘭の爆弾によって崩壊した建物が立ち並ぶのが見えるだけ。
 それだけでも白き影は構わなかった。

「やっぱりバレたか」

 正体がわからないようにすれば正体がわかって
 普通に行動をすれば、正体がバレて、どちらに転んでも結局のところ怪しまれる。

「でも、俺は目的を達成するまでは見つかるわけにはいかない」

 見つかれば、自分で決めたケジメから脱することになる。
 それならば、一体何のために姿を消したかわからなくなる。

「狭き世界の中で大切な人を傷つけた、その原因を拭い去るまでは俺は姿を見せるわけにはいかない」

 白き影は目を細める。
 その先に見据えるのは、地上。罪人の牢獄ではない上の場所。


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