零の旋律 | ナノ

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「じゃあ、もう一ついいか?」
「なんだ」
「この情報はいつ仕入れた?」

 泉の顔が笑う。

「最新情報だよ、これは白き断罪がこの街から撤退した後に仕入れた情報だ」
「……」

 榴華は何も言わない。
 白き断罪がこの街から撤退してからどれだけの時間が経過したことだろうか、まだ一時間と少ししか経過していない。
 それだけの短い時間でどうやって情報を入手したのだろうか。

「榴華が有料でこの情報を欲しいと思ったから入手しておいただけのことだ」

 これが情報屋泉の実力。
 榴華はぞっとする。第一の街支配者は、他の街の支配者の中でも突出した戦闘能力を誇っているといわれているし、突出しているかどうかは別として、榴華自身も自分は攻撃を得意としていることを自覚していた。
 その自分をぞっとさせる泉は、間違いなく疑いようもなく危険人物だった。
 一体一でやりあった場合はどちらが勝つのか、想像をしたくもなかった。以前そう言った機会があった時、決着は着くことなく罪人の牢獄支配者が中断させた。泉と榴華が本気で衝突したら困るからだ、それほどまでの人物――。

「流石やな」

 榴華の口調が元に戻る。

「どうも」

 榴華は泉に向って報酬を投げる。
 泉はそれを右手で受け取る、指輪だった。翡翠の玉石がついた銀の指輪。

「他にも情報を一つ二つくらいならやるぞ?」

 泉にとって、その指輪は先ほど自分が提供した情報の値段換算より上回るものだった。
 対価に見合うだけの情報を提供する。
 ならば、対価の方が大きかった場合は他にも知りたい情報を教える。そうして釣りあいを取る。

「じゃあ、そうやなぁ。自分他の罪人に話を聞いたんやけど、想思の術は今までお目にかかったことがない変なものだったらしいやん、それってなんや?」
「あぁ、失敗作の人形ってことか」
「失敗作の人形? それはどういうことや」
「シークレットだ」
「なんでや?」

 失敗作の人形や、見たことのない術を聞く程度なら対価の範囲を超えていないはず。 榴華が対価として差し出した翡翠の指輪は換金すれば結構な金額になる。
 別に、それをきく程度おまけの情報範囲を超えてはいないはず。
 そう思った榴華の考えが表情に出ていたのか、泉は補足する。

「人形について、語るのがそもそも指輪一つじゃ足りないからだ」
「なんやと?」
「失敗作の人形、いや人形その存在が政府の上位機密事項の一つだからだ。それを教えるには対価が足りない」
「機密事項やと!?」

 榴華は驚きを隠せない。無論、それはこの場にいてさり気なく榴華と泉のやりとりを聞いていた者もだ。

「だから、別の情報なら教えてやるよ?」

 榴華はその言葉にこれ以上は失敗作の人形について泉に問うたところで何も成果が得られないだろうと判断し、別のことを考える。

「……じゃあ、個々の戦闘情報を教えてん?」
「白圭は大剣を自在に扱う。見た目通り力がある、他にも武器の類は一取り扱えるし、術もそこそこ扱える。隊長というだけあって他の白き断罪より戦闘能力は突出しているな。由蘭は後方支援の術者。第三部隊の中で術に関しては最も秀でている。烙は剣術と風属性の術を得意としている」
「烙はわかるよん、やりやったし」
「砌はメイスを使った打撃を得意としている。女性だが、力は白圭と拮抗しているといっても過言じゃない程力強い。想思は髪の毛を媒体として、それを別の物質に変化して戦う。舞はリング状の武器を使って戦う。焔は遠距離からの狙撃を主に得意としている。夢華は刃の着いたトンファーを巧みに操る」

 戦闘情報を当たり障りなく説明する泉。


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