零の旋律 | ナノ

V


「おお、頑張ってるんねぇ」

 そこに呑気な緊張感の欠片もない声が響く。手を振りながら現れるのは榴華。先ほどまでは別の仕事があるとか言ってこの場にはいなかった。
 このふざけた態度はどうにかならないのかと篝火は思う。

「そう思うんならてめぇもやれ」

 榴華の言動が気に食わなくて毎回突っかかる朔夜。

「えー自分ら頑張ってるんからいいやん」
「そうだね、榴華なんかいなくても問題ないから皆で榴華を抹殺しようか」

 笑顔で武器を取り出す斎に榴華は降参のポーズをする。

「わーたよん、自分ら短気は損気やでぃー自分も手伝うよ。イツン」
「そろそろその呼び名やめてくれないと、榴華の住まいにこっそり爆弾仕掛けるよ」

 物騒なことを笑顔でいう、その瞳は本気だった。

「……ケチやなぁ。本当に。まぁいいけどん。泉さんに話会ってきたんよ」
「なんだ?」

 相変わらず作業を手伝わないで、少し高い瓦礫の上に座っている泉。
 榴華は立ったまま泉の方を向いて話し掛ける。

「泉さんなら知ってるんやないかと思うてな。白き断罪が現在この罪人の牢獄に何人いるのか」
「……全員は把握していない」
「その間が気になるんけれど、ならそれでもいいや。現状で来ている人数と名前を教えてくれますん? 勿論対価ははらうで」

 罪人の牢獄支配者――通称銀髪、彼も知っているだろうと榴華はある種の確信をしていた。
 根拠も証拠も何もない。けれど榴華にとってあの人物が何も知らないとは到底思えなかった。
 恐らく最果ての街まで赴き、情報を要求すれば銀髪は応えるだろう。けれどそれが正確な情報だという保証は何処にもない。それならば泉に聞くのが一番確実で安心材料だった。泉は対価以上の情報は教えない、けれど対価内の情報であれば正確無比に伝える。
 逆に言えば、対価を払わなければ泉は知っている情報を、それがこの罪人の牢獄に存亡にかかわることでも教えたりはしない。


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