零の旋律 | ナノ

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 そこに篝火が口をはさむ。

「……玖城家が四大貴族からなくなったのか?」
「うん。二年前に」
「二年前なら、ギリギリ俺が知らないころか」

 篝火は頭をかく。まさか四大貴族玖城家がなくなっているとは思わなかったからだ。

「玖城家は確か、現当主が罪を犯したからだよ」

 斎は知っている自身の知識を話す。
 表向きには、そんな風に公表させていないけど。そう心の中で呟きながら

「だから現在残っているのは雅契と鳶祗になる。日鵺は八年前に賊の手によって壊滅状態に追い込まれた一族だ。まぁ、補足するなら別になくなったわけではない。四大貴族の名称も、日鵺も玖城も存在していて、特権とかも全て残っている」

 泉が再び口を開く。多少高さがる瓦礫の上にいつの間にか座っていた。
 いつの間に作業を中断したんだよと篝火は思いながらも一人作業を続けていく。

「特権って?」
「貴族の特権。まぁ色々あるさ。何せ四大貴族だ。簡単に消すことは出来ない。血族がいれば、何も問題はない。血族が途絶えた時こそが、四大貴族じゃなくなる時……だろうな」
「だが、当主は罪を犯したり、賊の手で壊滅状態に追い込まれたんだろ?」

 朔夜は首を傾げる。

「あぁ。だが、だからといって血族が死んだわけでもない」
「ほへー」

 なんてコメントすればいいかわからずに、曖昧な感心を占めす。貴族を殆ど知らない朔夜だからこその言葉だ。なくなって、そして存在している。そこにはかなりの矛盾を含んでいた。

「って待って。泉。日鵺家って全員死んだんじゃないの?」

 斎が一つの疑問を思い当たり問う。

「それは表向き」

 そのひと言で斎はある種納得出来た。不都合となる情報を態々公開するとは思えないからだ。

「因みに、貴族には其々別名があるが、まぁそれはいいか。どうせどちらかを知っていればいいしな」
「別名って、翡翠の一族とか?」

 斎が聞いたことがある別名を口にする

「あぁ、そうだ。まぁそんなのは別に今知らなくても問題ないだろ、第一のここにいるのだから関係ないだろ」
「そりゃそうか、他に気になることはあるかい? 世間知らずの朔ちゃん」
「やめろっ……俺たちの扱う術で、回復や治癒の術は不可能じゃなかったのか?」

 朔夜は斎と泉のほうを見ながら口にする。回復、および治癒は現在の技術では不可能とされる術の一種であった。それなのに何故四大貴族と呼ばれる日鵺一族は“治癒”を扱えるのか。その疑問に答えたのは情報屋である泉だ。

「それは、日鵺一族に連なる者だけが治癒を扱えたんだ。昔からな。だが、結構前から日鵺一族も治癒が使えない時代が続いたんだ。原因は不明にしておくけどだ。だが……十四年前に日鵺一族に生まれた嫡子が治癒の力を持っていたんだ。それも歴代と比べて遜色のない力を持った、それが原因で日鵺は滅ぼされたんだがな」
「流石、情報屋だな」

 朔夜は感心する。

「それくらい常識だ」
「うっ……」

 そういい返されると何も言えない朔夜だった。自分自身、国について知らないことが沢山あるのは事実。

「原因不明にしとくって何? 泉」

 そこに口を挟んだのは三人が作業をやめて話しているのと対照的に一人黙々と作業を続けていた篝火だった。

「はっ、勿論そこからの情報には対価がいるからだろ?」

 ニヤリとほほ笑む泉、端正な顔だちに歪んだ微笑みは、なんとまぁ悪役面なのだろうかと篝火は心の中で思う。勿論口に出すことは決してしない。


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