第壱話:知らずの違和感 +++ 一時の休息、束の間の休憩の後、壊れた建物の修復をすることとなった。 一部の罪人は第二の街に逃げた為、人手は足りない。 「うー、怪我人を早々に働かすんじゃねぇってんだよー」 文句を言ったのは建物を直す為、一旦瓦礫を取り除く作業をしている朔夜。 一度運よく無事だった自宅に戻り、汚れを落としてボロボロの服から、白いワイシャツと黒いズボン、薄茶色のブーツに着替える。 怪我をしている部分に包帯は巻かれているものの、血は流れてはいなかった。 「疲れる」 「とりあえずその長い髪、縛ったらどうだ?」 一緒に作業をしている篝火は力のない朔夜の代わりに、朔夜が重くて退かせなかった瓦礫をどかしている。朔夜の力のなさは今に始まったことではないので篝火は特に気にしない。 疲れるぼやいた朔夜よりずっと疲れる力仕事を篝火はしている。 篝火には怪我をした傷口が広がらないように厳重に包帯できつく巻かれている。 それでも包帯からは僅かに血が滲みでている。 「やだ」 朔夜は髪を縛るのを嫌がる。だから普段から髪は極力縛らなかった。 それなのに朔夜は長く伸びた髪を時々邪魔だという。 「わがままだよねぇー」 さり気なくほぼ無傷な斎は、箒に手を当てながら云う。 「オイコラ、お前さぼっているんじゃねぇよ、こちらと怪我人なんだ」 「日鵺一族が生き残っていたら良かったんだけどね」 斎はポツリと呟く言葉に、この場にいた者は云云と頷く。唯一人、朔夜を除いて―― 「は? 日鵺一族ってなんだ?」 日鵺一族とはなんなのか、そう疑問に感じて口にしただけなのに、その場にいたものは珍しいものを見る目で朔夜を凝視する。 「な、なんなんだよ」 朔夜は一種の居心地悪さを感じ、数歩後ずさりする。 数歩後ずさりしたところで、篝火がどけた瓦礫にぶつかる。 「朔さぁ、世間知らずだとは思っていたけど、まさか四大貴族まで知らないなんてどんな御坊ちゃまよ……四大貴族なんて上じゃ、知っていることが常識でしょ」 斎の言葉に、再びこの場にいるものは頷く。 「そもそも! 四大貴族って何だよ!」 一人話がわからず困惑する朔夜。 どうしたものかと斎が思案しているとき、その場にいた泉が口を開く。 「四大貴族ってのは国に存在する貴族の中でも、上位貴族のことだ。日鵺(ひびや)、玖城(くじょう)、雅契(がけい)、鳶祗(えんし)の総称だ」 「……なんで、その四つの貴族だけが四大貴族と呼ばれるんだ?」 「四大貴族って呼ばれる本来の所以はまぁあるんだが、そこは複雑だから置いておく。其々四大貴族には司っているものがあるんだ。日鵺は治癒。玖城は情報、雅契は魔術、鳶祗は武術。其々名門中の名門だ」 「へぇー」 感心しているのか、していないのかわからない声を出す朔夜。初めて耳にする言葉ばかりで理解がまだ追いついていないのだ。 泉の説明に補足をつけるように斎が口を開く。 「四大貴族って言われているけど、現在も残っているのは雅契(がけい)と鳶祗(えんし)の二家だね、他は滅びたり没落したりってのが実際のところ……まぁ残っていることにかわりはないのだけれど」 最後の方は小声で独り言のように呟く。 「なんでだ?」 「……本当に朔は何も知らないんだね」 「あぁ? 悪いかよ」 斎のわざと憐れんでいるような瞳に朔夜はイラつく。 [*前] | [次#] TOP |