零の旋律 | ナノ

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 生きるための誰かを何かを殺して生きているのならば

 生きている存在そのものが全て罪人

「……そんなもの唯の膨張した考えた」

 もはや痛みで感覚がマヒしてくる。けれど言葉は自然と浮きあがる。

「そうかしらぁ? まぁ別に膨張していても構いやしないけれどねぇ私は」
「あがはががっつあぁぁ」

 罪人は再度悲鳴を上げる。
 突如として襲いかかってきた蔓は、罪人の身体を斜めに貫く。
 罪人の身体は宙に浮いたまま。蔓に貫かれたまま。
 重力に逆らうことなく、身体は下に落ちようとする。けれど心臓より僅かに上に貫かれた蔓が支えとなり簡単には落下しない。
 唯ゆっくりと、体重の重さによって身体が下に落ちようとするにつれ、身体は引き裂かれる痛みに苦悩する。
 ゆっくりとだが確実に穴は広がる。
 血が滴り、緑の蔓は忽ち赤い蔓へ変貌する。

「ぐがっがっあぁ」

 いっそ心臓を一突きにしてくれればいいのに。
 何故わざと心臓を外した、そう罪人が思ったときだった、彼女の言葉が蘇る。“可愛がって上げる”それは残酷な殺し方であろうか

「あははーきれーい、きれーいよぉゆっくりと流れゆくその緋色。美しいわねぇ、あはは、私の武器に華が咲いたみたいよ、ねぇ綺麗でしょぉ」
「がはっ、はっ、さっさとこ、殺せぇ」

 息も途絶え途絶えに罪人は口にする。
 どうせ助かりはしない、死ぬ。
 ならば、安らかに死にたい。
 そう願うのは人の最期。

「やぁーよ、言ったでしょ? 可愛がってあげるって、あははははっ、いいわねぇその歪んだ瞳、憎悪の口だーいすきよ、キスしてあげよっか? きゃははははっ」
「がはぁ……はぁ……」
「きゃははははは、素敵素敵ぃその表情たまんないわねぇ死に行く運命を呪い、残酷なる死への恨み、さっいこーあはははは」

 狂ったように笑い続ける彼女。
 腹を抱えて心底可笑しそうに笑う。
 何が、
 何が、
 何がそんなにおかしい
 何がそんなにおかしい

 人が死にゆく姿を笑いながら眺めるなど異常だ。
 ――何が、そんなにお前を狂わせた。
 罪人には理解できなかった。理解の範疇を超えていた

「ふふふ、そうだ、お礼にいいこと教えてあげるわぁ」

 彼女は内緒と、言わんばかりに口もとに軽く指を添える。

「罪人の牢獄……罪人はねぇ、悪人だから罪人なんじゃなくて、政府が見捨てたから罪人なんだよぉ」

 罪人は悪人だから罪人ではなく
 政府が見捨てたから罪人

 それは一体どういう意味なのだろうか
 それは一体何を示唆しているのだろうか

 罪人は思考を終える前に、絶命した。
 彼女――梓は笑い続ける。
 死体を前にしてもなお、狂喜に舞う。


「死にたいと口にする奴ほど、本当は生きたくて、誰かに助けてもらいたいのよねぇ」

 最果ての街支配者梓は今日も罪人を殺す。
 緋に染まる
 その身に抱く感情は何であろうか
 何を思い何を感じ何を想うか


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