T 「でもねぇ、貴方が死にたいのにそんな勇気すらないってんなら私が可愛がってあげるぅ」 ニヤリとほほ笑む。 背筋が凍るような冷たく狂喜に満ちた微笑み。 彼女の周りに蔓が地面を突き破り現れる。 それは、罪人に向かって容赦なく向かう。 「ぐっあぁぁぁぁぁー!!」 罪人の片腕が持っていかれる。 彼女はもぎ取った罪人の片腕を手に取りうっとりと眺める。 高価な宝石を眺めるように、まるで彼氏との初デートのように頬を薄い桜色に染める。 「あはははっ」 彼女は片腕の軽く唇を当てる。 罪人の片腕があった場所からは血が勢いよく溢れ出し、地面は血を吸収して乾いた血の色を出す。 「き、き、貴様!!」 罪人は叫ぶ、その瞳に宿るのは憎悪の瞳 「きゃははははははは、だって死にたいんでしょ? 死にたいんでしょ? ならさ」 彼女はいったん区切る 悪魔のような微笑みを浮かべ 「私が殺してあげるわよぉ」 残酷な言葉を突き付ける ――苦しませて殺してあげる ――簡単になんて死なせてあげない 「ふざけるな!」 罪人は叫ぶ。 何故、どうしてこんないかれた奴に殺されなければならない。 こいつはまともじゃない、罪人の名に正しく当てはまるような存在に。 「ふざけてなんかないわよぉ、あははっ」 「い、イカレタ奴め!」 「あはっ、ここは救いのない果てよ、というかさぁ皆みーんな、どうしてまともであり普通であろうとするんだろうねぇ?」 「はぁ? それが普通だろうが」 「普通であろうとするから、壊れるんでしょ? だったら壊れてしまえばいいじゃないのよぉ、くだらない理性や自制心で境界をしき、普通であろうとする。そんなものになんの意味があるっての? 壊れてしまえばそれでいいじゃない、ねぇ?」 彼女は踊る、片腕とダンスするように。 「ここはねぇ、普通であろうとして壊れているのが多いのよぉ、とっくに壊れているのに普通だと偽っているのが、それも心から、だから壊れていることに気付かないのよぉ例えば」 ダンスをやめて罪人を見る。 「大切な人を失ったが故に自暴自棄になって、ケジメだと心に嘘をついてこの地に堕ちてきたりぃ、一人よがりな考えで、一緒にいることを辞めて一人で人を殺したりぃ、普通であろうとして、理性を保とうとして自制しようとして自傷するやつ、大切な人を守るために好き好んでこの地まで堕ちてきたやつ、そんなんばかりなのよぉ」 ――だからね 「みーんなみーんな、本当はぶっ壊れているのよぉ」 ――だって 「みーんな、生きるために何かを殺して生きているんだもの、そんなのが本当に普通であり、まともなのかしらねぇ、貴方もそう思うでしょ?」 [*前] | [次#] TOP |