零の旋律 | ナノ

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 ――生きていて何かいいことってあるの?
 生きていてもいいことも生きていく理由も何も見出せはしないのだけれど、それでもそれでも――


+++

「ちょ、夢華様! 何をなさいますの? 下ろして下さいませ。わたくしは歩けますわ!」

 只管走る。後ろを振り向かずにただ前を向き。目指すは白き断罪が拠点とする場所。
 夢華は由蘭を担いで走っていた。何処にそんな力があるのだろうと思える華奢な腕で、由蘭をしっかり担ぐ。由蘭は夢華よりも身長も低く、同じく華奢な体形ではあるが、それでも儚さを全身から醸し出す夢華に担がれる構図は見る人見る人違和感を覚えるだろう。

「駄目。結構足痛いでしょ」
「うっ……け、けれどもわたくしはそんな担がれるほど弱ってはおりませんわよ」

 ジタバタを暴れる。

「……だって白圭が担いだら、誘拐犯みたいじゃん」

 さらりと酷いことをいう夢華に白圭は項垂れる

「おい」
「……まぁそれはおいといて」
「おくな」

 白圭の抗議を夢華は無視する。

「無茶してこれ以上足を痛めたらどうするの? 治療術の使い手なんていないんだから。それに由蘭が倒れたら僕らが拠点としているあの場所も使えなくなるんだよ」
「そうでしたわね」

 由蘭は抵抗を止め、おとなしく夢華に担がれて運ばれるのを選んだ。
 此処で無理をして走って後後に影響を及ぼすわけにはいかない。由蘭は常に術を使用している。白き断罪の拠点を維持するためにだ。由蘭が倒れれば自然と術は解け、白き断罪はいずれ砂の毒に身をやられることになる。それは避けなければならなかった。

「そんなに私は……誘拐犯か?」

 一人落ち込む白圭に想思は励ましの言葉をかけた。

「ちょっと年がいっているだけだから大丈夫だよ」

 つもりだった。

「お前は私に追い打ちをかけたいのか」

 その言葉に想思はあっと声を上げる。


+++

 一旦の休息を挟み、烙は再び第一の街へ足を運ぼうとしていた。自分はまだ戦える。その想いが楽を突き動かす。目の前に広がる光景は、数時間前の原型が余り残っていない建物。
 絡の目の前に一つの白い影が現れる。

「絡、撤退だ。今回のは失敗だよ」
「……なんでお前がここにきているんだ?」

 白い影が現れたことに眉を顰める絡

「俺はそれを伝えに来ただけ。本番前の余興は気が済んだ?」

 絡は思わず、白い影に斬りかかりそうになる。
 その衝動を抑えてつとめて冷静になるようにする。

「撤回しろ、余興で人を殺しになどかかりはしない」
「……結局殺したらなんだろうと変わらないと思うけどね。まぁいいいか。とりあえず今回の作戦は失敗だよ。でもここまで破壊出来たんだ、上出来でしょ」
「……相変わらずだな、てめぇは」
「俺にそういうことをいう?」

 白い影は冷笑する。

「っち。白圭たちは?」
「白圭たちも撤退した。後は君だけだ」

 絡と白き影は第一の街を後にした。


 後に襲撃の後に残ったものは――
 得たものなんてなくて失ったものしかないのかもしれない


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