零の旋律 | ナノ

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 ――大切だということを人は何故、否定する?

 斎は追わなかった。
 由蘭の攻撃から身を守るための結界を解く。
 由蘭は悉く何故避けると叫んだ。しかし

「(それは違うよ、由蘭。由蘭の術は成長している)」

 結界を張るために媒体とした札を見る。普段ならそのままの形状の元結界を解いた後消え去った。
 しかし、この札は所々が虫食いのようになり、焦げ跡もついていた。そして普段ならならない塵とかし消えた。

「……もう少しで俺の結界破かれていたな」

 例え、結界が広範囲だったから威力が低下した、なんてことはない。それはただの言い訳に過ぎない。
 由蘭とて一点集中型の術ではなく、広範囲の術を使ったのだから、条件は互角だ。

 視線を朔夜に映すと、朔夜は地面に横たわりながら咳きこんでいた。
 綺麗だった服は灰色に濁り、所々破けている。白い髪は灰を被ったかのように煤汚れている。
 目立った出血はなかったが、それでもあちらこちらを打っているのだろう、朔夜は痛そうに手を腰に当てている。

「大丈夫?」

 斎は朔夜に近づいて、手を差し伸べる。

「大丈夫? って聞くんなら最初っから俺にも結界をよこせってんだ!」
「何を言っているのさ、離れていたんだ。即興の結界じゃ朔まで範囲がいかないよ」

 朔夜は斎の手を握り立ち上がる。

「守れってんだよ」
「無理云わないでよ。そんな万能な術なんてあるわけないんだから、まぁ術の腕前上達に付き合ってくれるなら、朔を守る専門結界を作る努力ならするけど」

 立ち上がったはいいが、朔夜は足に痛みを感じふらつく。

「危ないなぁ」

 それを斎が支える。

「うっせぇ」

 尚も朔夜は悪態をつく。
 由蘭の四方八方、敵も味方も関係ないような攻撃に朔夜は守る術がなかった。
 斎や由蘭と同じ術者であっても、二人とは違い結界術は一切使えない。だから朔夜は一瞬の躊躇の後、相手の術から攻撃を守るために、上から、青白い閃光より素早く術を落雷させ、それで相殺させていた。
 といっても、本来防御に使うための術ではないのと、上からの落雷が主な攻撃であるため、同じく上空から来る青白い閃光から完璧に身を守ることが出来ずに怪我を負った。

「まぁ生きているからいいか。死んじゃったら困るしね」

 斎のその言葉に、朔夜は斎に背を預ける。


 ――あぁ、壊したい何もかもをめちゃくちゃにしたい。全てを破壊したい。壊したい壊したい
 とどまることを知らず溢れる感情は人の心を支配していく。


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