\ 「何故、わたくしの攻撃を悉く回避するのですか!」 由蘭は叫ぶ。 「……」 悲痛な叫びに斎は答えない。 由蘭の青白い閃光は、斎の結界外を悉く破壊していた。暫くの間その反動で煙幕に視界が覆われる。 「……わたくしは、わたくしは」 由蘭は何を伝えたいのか、伝えたい思いだけが先走り言葉に出来ない。 「由蘭……」 斎は由蘭の名前を唯、呼んだ。 裏切ったのは白き断罪。組織に身を置く彼らを全て自分は裏切ってしまった。 自分が守りたかったもののために。 けれど、その理由を口にすることはないだろう、彼を傷つけたくはない。 傷つく顔をこれ以上見たくない。 それが唯の自己満足だと斎はわかっていた。 それでも、失いたくない思いがある。 だから裏切った。 「由蘭、俺は俺がしたことに後悔していないからいいんだよ」 その言葉は由蘭に向けたものでは決してなかった。 その言葉は由蘭には届かないから。 唯の一人呟いた言葉。 それはまるで、自分自身を安定させるための安定剤 いつかその呪文が効かなくなったとき、ヒトの心は何処へ向かうのだろうか 「退くぞ」 白圭のその一言で、彼らはその場から撤退をした。 郁はそうはさせまいと追おうとしたが、それをいつの間にか傍にいた泉が止める。 「手当が先だ。これ以上血を流すな」 その一言で郁は大人しくなる。 兄に不要な心配をかけたくないし、増やしたくないから。 篝火は退いてく相手を追おうとするつもりはなかった。 殺さなければまた、やってくるのも事実。だが、足が動かなかった。 去り際、目の前にほんの僅かだけやってきた夢華の一言で動くはずの足は動かなくなった。 「まだ、刃を持つことは出来ないんだ。過去の過ちを繰り返さないため、という理由で自分自身を思い出したくない記憶から守ろうとしている」 全身が震える 「夢華っ」 「けれど、君は刃を握らなければならない時が来るよ。それを躊躇したら、君はまた大切な者を失うことになる」 「っ相変わらずだな、お前は」 辛うじてそれだけを声にする。 「僕は、唯感じ取るだけだよ。そこにある想いを」 ――僕は夢華 夢の華 生きていようと 死んでいようと ――僕は夢の華 [*前] | [次#] TOP |