[ ――現実で存在しようが存在しなかろうが、世界は恐ろしい程に何も変わらない 「白圭、まだ続ける?」 夢華は白圭に問う。 その意味を白圭は正確に理解していた。 静かに首を横に振る。このまま無理して戦い続ける必要はない。夢華や自分、そして由蘭がまだ動けたとしても想思は怪我を覆っている。これ以上無理に動かしてその後に支障をきたすわけにはいかない。 これはまだ唯の宣戦布告のうちに過ぎない。 此処で、大切な部下を失うわけにはいかない。 それだけではなく、白圭にとって白き断罪は生きる意義。そして部下は大切な仲間。 もう、これ以上、大切な何かを失いたくはない 狂った笑い声を消すために。 「滅びなさい! わたくしたちの敵よ」 白圭が引くことを決意した時、叫び声に近い声が聞こえた。由蘭だ。 足首を痛めているはずだが、それでも立ち上がり本を片手に詠唱する。 由蘭の目の前に立ちはだかるは朔夜。 本から凍てつく光が溢れだす。それは鋭く、痛いという表現が似会いそうな程に。四方八方にそれは伸びていき――青白い光が由蘭の足元に陣を描く。 「青の閃光は時を駆け、天空を羽ばたけ」 暴発する勢いで、術は発動される。青白い閃光が周辺に飛び散る。 「ちっ、……守れ! 我が身を危険に晒す外敵より汝の守り神の力にて」 由蘭の攻撃は、無作為に近い。青白い閃光から“仲間”を守るため、札を斎は取り出す。 斎から後方一面に広い結界を作りだし、青白い閃光を防ぐ。矢尻のように上空から降り注ぐ閃光の嵐。 当たればただでは済まない。 「……一度仲間と認めてしまえば、簡単には裏切れないよね」 夢華はそれとなく呟く。 斎の作りだした結界は、由蘭と戦闘をしていた朔夜までは範囲に届かなかったが、他の者たちは結界の仲だった。それは敵である白き断罪さえも。 「……斎」 斎の結界によって、四方八方に関係なく攻撃した由蘭の攻撃から守られている事実に、白圭は悲しい顔を浮かべる。どうして裏切ったのだろうと。 こんなにも優しい子だというのに。 初めて斎に出会ったとき、この子はいい子だと直感した。そしてそれは間違っていなかった、白圭はそう思っていた。 だから裏切りが許せなかった。 仲間だったから、だから名前を呼ぶのを止めた けれど斎の実力ならば、一か所に固まっている自分たちを、結界の範囲から除外することは不可能ではないはず。それなのに、自分たちも一緒に守ったということは――そう考えてしまうと、自然と口から零れる斎の名前。 あの時失ってしまった大切な仲間の名前。 [*前] | [次#] TOP |