零の旋律 | ナノ

V


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 第一の街と第二の街を繋ぐ道

「くっ……」

 右手に激痛がはしる。握っていた刀を落としてしまいそうになる。
 しかし、今一歩のところで踏みとどまる。
 武器を自分の身を守るものを、手放すなど自ら死にに行くようなものだから。
 そんなことはしない。
 再びあって理由を聞くまでは死ねない
 烙は気力で武器を握り締める。

「はっ……本当に強いなぁ」

 嫌になる。
 どうして、こうも戦いにくい相手ばかりが相手なのだろうか。
 今はいない親友を思い出す。背後を任せられた相手を。

「どうした? お前はその程度の力か?」

 本当に嫌になる。
 どうして、こうも相手は自身満々なやつらばかりなのだろうか、自らを自嘲しよう。

「かかってこないなら死ぬまでだな」

 眼の前に降り注ぐ紫電の光。
 ――そんなものに負けるものか。

「守れ、汝の輝きを我が身に付加せよ」

 自身を守る結界を作り出す。
 接近戦を得意としているし、遠距離の相手は苦手だが、そんなことはどうだっていい。
 殺されるつもりは毛頭ない。
 術を巧みに扱えないわけでもない。刀を振り回すだけが戦術でも戦法でもない。

「なんだ、術もつかえたのか」

 見下すように冷たい言葉。
 淡々としたその表情。感情などないように。

「風よ舞え、彼の地から切り裂くための刃と化せ」

 微風が辺りを包み込む。
 次第にそれは強風へと変わる。
 絡は唱える
 そこに込める願いは――

「なんだ?」

 絡を包み込むような風に、榴華は眉を顰める。一体何をしたいのか理解出来なかったからだ。唯、理解したのは、口ずさむ演唱をする絡の表情が寂しげだったことだけ。
何かを求めている。けれどこの場にいない失ってしまった者が見せる寂しさ。
 どうしようもない悲しみと苦しみ。
 言葉になど、それは表わせないだろう。

「邪魔な風だ、紫電の稲妻よ」

 絡を包み込む風に向かって、榴華は紫電の光を打ち込む。それは稲妻のように鋭く。
だが、紫電の光が撃ち込まれた先にあったのは、唯の砂埃が舞うだけ。
 そこに絡の姿は何処にも見えなかった。

「逃げられたかっ……」

 誰もいない空間に舌打ちが響く。


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