ぐだぐだ | ナノ






水に沈んでいく感覚に似ている。ぶんっ、と、力いっぱい投げられて身体がふわっと宙に浮く。そのまま緩やかに落っこちて着水して沈んでいくという一連の運動に似ている。上り詰めて気が狂うとか良すぎて戻って来れないとかそんなものとは程遠い、あっ、て投げられて駄目だ、と思ってゆっくり背中から水に落ちていくようなそういうものだ。私にとっても、恐らくそれは彼にとっても同じだと思う。あの冷え切った目。

太股がねちゃっとして憂鬱になる。拭くのも億劫で、湿っていると寒いけどどうでもいい。この空白が嫌なのは、わけもなく泣きたくなるからで、普段なら抑えておける色んな感情が一息に押し寄せて不安とか寂しさでわけもなくめそつきたくなったり相手に縋りつきたくなったりするからで、いつもそれが何より嫌でうつ伏せで枕に顔を埋めて逃げるように眠る。


「寝ちゃったの?」


つまらそうに、ゴムを縛ってその辺に投げ捨てて龍之介くんは私の髪の先を優しく引っ張る。寝ちゃったの。と泣きそうな声で返したら、そっかぁ、とさして気にも留めないようにもう一度戻ってくる。あったかい、やさしい、親しげな音だけでしにたくなる。ずっと鼻を啜る。寒い、と思っていたら腰あたりまで布団が勝手に動いた。龍之介くんは壁に寄りかかって座ったまま暇そうに部屋の中の虚空を見ている。指だけが私の裸の背中に散らばる髪を集めていて、私はもごもご埋もれたまま声を出す。


「しにそう」

「俺もしにそう」


セックスしてしにそうになったのは初めてだ、と彼はぼんやりした声で続けた。しにたいでもしんじゃうでもなく、しにそう。どちらかと言えばより一層死神と呼べるのは私より彼だと思うけど、名前も知らない女は例え死神でも殺せないのかもしれな、「なまえちゃん」い。知っていた。呼ばれないから知らないと思ってた。


「もっかいしていい」

「しぬよ」

「いいよ」


滲んでいた片目で見た彼が、あまりに幸せそうな笑顔だったものだから、私は目を閉じて笑う。いかれてる。いいよと私も返す前に髪が掻き分けられて首筋に柔い前髪がかかる。肩を舐められて、軽く歯が立てられて、龍之介くんのきらきら光るオレンジの髪を思い出して、手探りであの細い指を探す。やっと冷えてきた場所にはまた温いものが溢れた気がする。




20111201 −死神二人