ぐだぐだ | ナノ







終わりのような雨だった。何もかもを奪い去る荒れ狂う暴風のような雨だった。ただ天上から際限なく降り続ける一寸先さえ視界から引き剥がす程度の雨。雷も鳴らず、風が邪魔することもない、ただの雨。遠くから迫ってくるような雨。逆に気は遠くなる。遠ざかっていく。薄いガラス一枚隔てた向こうの世界の灰がどうしようもなく恐ろしく、虚ろなものに見える。見慣れた眼下に広がる校庭、続いていく街の風景も。

投げ出されたら死ぬんじゃないかと真面目に思う。


「雨はそんなにも愉しいか」

「べつにたのしくはないです」

「我に拝謁を許されて尚、貴様は窓から目も外さぬ」

「『せっかく我が呼んでやったのにちょっとはかまえ』」

「雑種にしては簡潔な理解だ」


そのものが光を放つような金色の髪と、毒蛇のような輝く宝石のような瞳はまったく品の無い豪奢極まりない容姿だと思うが、美貌とはかくも禍々しい。奇天烈な成金趣味さえ捻じ伏せて魅力にしてしまう。窓ガラスに映る表情は大層不満げに口を結び、すっとした長い指はいらいらと二の腕を叩いていた。

仄かな光で反射する彼の姿はまさしく、澱んだ外界の太陽だった。私の姿さえ容易に飲み込んでしょぼくれた街の一片に組み込んだ外界に映し出されても滲むことはない光源であった。美しい、と、おもう。美しい。一辺倒の世界に一つだけ紛れ込んだ場違いな強さ。彼が外へと手を差し出せば、天は恐れて冷たい雫が掌に落ちる前に終わりの雨を引っ込めるんじゃないかと思えてしまうほどの。

私は窓を開ける。すっとした空気が部屋に流れ込んできた。


「雨が恐ろしいのか」

「はい」

「脆弱なものだ…雷でも鳴れば死ぬのではないか」

「雨のほうがずっと怖いでしょう」


手を伸ばすとばたばたと雨は汚く私に降り注いだ。先輩は、窓のさんに手をついて私を押す。空に掌を向けた私の上に、純金のごてごてした指輪が幾つもついた掌が向かい合うように止まる。白い甲は、私と同じように濡れた。汚く濡れた。降り注ぐ終わりの雨は彼さえもなんてことはなく、呑んでしまう。

何が恐ろしい。薄汚れた埃塗れの、雲の吐露に過ぎん。

天にさえ及べぬ雲風情の。冷たい声だった。おそれていた雨のほうがずっと、人肌のような生温さでしかない。窓が無いせいで彼の表情は見えない。彼の手は大きくて、腕は太くて、私の肘から先はまったく濡れてなんていなくて、


「窓を閉めろ、なまえ」

「どうして」

「濡れる」

「私は濡れません」

「我が濡れているから当然であろう。穢れた箇所は貴様が舐めろ」


雨は先まで降り続いている。私の腕は、濡れないまま。



20111228 −黄金の彩雨