ことの発端はふらふらとさ迷って山に出掛けた昨日、時間を忘れてちゅう(仲良くしてくれてる鼠の経立のあだ名だよ)と遊んでいたら、ぼろぼろの格好で般若みたいな顔をしたグリーンが迎えに来てくれた。
随分と暗くなっていたし、確かに助かったのだけれど、帰ってから長い説教をされた挙げ句に『夜遅くまで人を心配させた罰だ』と不思議な腕輪を嵌められてしまった。幽霊に枷なんて前代未聞じゃないかな?

確かに僕も悪かった。後でシルバーから、山姥に追い掛けられながらも僕を探していたんだと聞いたときは本当に悪いと思ったし、目一杯反省した。だというのにこれは酷い仕打ちだ。
この物質霊(というらしい)の提供者であるゴールド曰く、この腕輪と対になっているもう一つの腕輪を着けた者から一定距離以上離れられないようになるんだとか。もちろんもう一つはグリーンが着けている。
だから僕はこの屋敷から外に出られなくて、それはそれは暇で仕方ないのだ

脱走不可能、奪取不可能とどんな策も失敗に終わった。グリーンはぶすっとして構ってくれないし、ゴールドとシルバーは帰った。コトネとお手玉するのもちょっと飽きてきて、今は縁側で休憩中。
幽霊は食事も睡眠もできないから、一日が人間より長いのをグリーンは分かってるのかな

『ひま…』

新しい妖怪でも来ないかな…と都合よく遊び相手が現れる空想に浸りそうになったその時、"僕達"独特の気配を感じた。

『池の方…?』

そういえば一週間程前に一匹死んだっけ。寿命で死んでたから成らないと思ってたけど
鯉の幽霊、面白いかもしれない

トンッと縁側を飛び降りて右足で着地。そのままけんけんと歩いて池の方に行き、水面を覗いてみた。
居る。生きてるのにうまく紛れ込んでいるけど…残念、同族はごまかせないね

『遊ぼ』

しゃがむのは苦手だから覗いた姿勢のままで聞いてみた。すると水に一切波を立てずに跳ねた一匹が、帰ることなく空中に浮いて宙返りを見せる。なかなかに美しいその意思表示に、なにして遊ぶと問うとすぐに水の中へ帰ってしまった彼(彼女?)だけれど、なにをして遊びたいのかはすぐに分かった。

池には10匹の鯉。勘で当てるには難しい数だけど、微弱な気配を集中して追えば…

『きみ』

正解!とクイズ番組の派手な効果音はないけど嬉しい。指した鯉からぴょんと跳ね出てきて喜びを伝えてくる姿が可愛らしくてそっと撫でた。少しぬめっとしていた

つまり単純な当て物ゲーム。他の鯉に憑依したこの子を見つけるだけ
でもやっぱり嬉しいんだ。見えてるよ、君は此処に居るよと言ってくれる存在が
だからこれは僕達の存在確認の常套手段兼暇つぶしとしていろんな種類の幽霊に使われている。僕だって何度もしてきたからこそ、今回すぐに理解できた。

でもそういえば、ここ何年かこんな遊びをしていない気がする
だって彼はいつも僕を見つけてくれる。見つかるまで、昨日みたいに探してくれる
そんなグリーンだから、僕達や妖怪が集まり易いのかもしれない。彼は絶対に存在を否定しないから

『…ねぇ、会いに行かない?』

きっと君も、彼を気に入ると思う









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そしてまた一匹グリーンのライバルが増える
ちなみに後にこの(錦)鯉、頭の辺の模様が王冠みたいだからとゴールドにキングと名付けられます




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