見たものしか信じないってやつはかなり多い
超常現象はたいてい科学的根拠で解決され、あまたにあった世界のロマンってのが粉砕されていくこのご時世
誰が『俺、霊感あります』と言って信じてくれる?
そしてそんな俺の隣で微笑む着物女を認めてくれる?
信じられなくとも、そこに在ると解ったならどうすればいい?

世界って、実はかなり理不尽だ



ようこそお化け屋敷へ!



俺がこいつと出会ったのは、確か小5。友人と帰り道で、担任教師の薄い頭の後退具合を話題にしてげらげらと笑って歩いていた、そんな時だ
それはもう唐突に、友人の隣に気配を感じた。
しかしここで誰だと慌ててはいけないし、いつの間にと驚いてもいけない。
友人には見えないのだから、一人で騒げば俺はただの変人だ。そんな経験ばかり積み重ねて育った(自称)スペシャリストをなめんなよ
…言ってて辛くないかと聞かれればYESと答えよう。聞いてきたやつ居ないけど

『………』

生きた気配のないそいつ―多分幽霊は、ただ俺達についてくるだけだった。
友人越しに見えたのは左足を引きずりながらけんけんと片足で跳ぶ赤い着物で、多分女。顔は見てないけど、着物が短いスカートみたいだ。
悪霊とかそんな類いの悪意有る気配はしない。つまりただの幽霊だろう
自分に害のないやつは放っておく。それが(悲しいかな)もう人の一生分以上の怪異を見てきた俺の持論だ。
知らないふり、見てないふり
そうして友人の話は『火着けてみたいよな』で締め括られた。

その後バイビーと軽い挨拶で一人になった帰路、そいつはまだついてきた。
けんけん、けんけん
俺が気になるのかちらちら視線を感じる。その次はとんとんと肩を叩いてきた
触ったって、俺じゃなきゃ気付けないぞ…とため息を吐きそうになりながら、やはり気になって、ちょっとだけと(何故か)自分に言い聞かせてそっちを見れば…

(…っ!)

さすがに驚いたし、身体は固まった。
まっさらってこれかと思うほど白い肌、烏の濡れ羽色って表現のしっくりくる黒髪
決めつけは綺麗な赤い左目と…ぽっかりと黒い穴の空いた右目部分
しかしそこさえなければ、見たこと無いくらい綺麗な女の子だ。

『………?』

こてんと首を傾げる美少女幽霊は、おそらく"見えてない"と思っている。
見えないはずの自分の方を向いて固まった俺は、向こうさんから見ればさぞ奇っ怪なもの

景色になにかあるのかと振り返ってきょろきょろとそのなにかを探しても、残念ながら田舎道の脇なんぞ山か畑が続くだけなんだが
まぁそんなとこには妖怪の類いが山ほど…ってのは今は関係ない話だ

次にそいつは俺の顔の前で手を振り始めた。見えてないなら意味ないだろうに…とは思ったものの、そのせいで着物の袖から現れた病的に細い腕にハッとして、俺はぶんぶんと首を横に振った。

見惚れてなんになる。相手はもう死んだ人間だ。幽霊だ
そうだ。なんか一目惚れしたかもなんて違うんだ。
心臓がうるさい?そんなの綺麗なお姉さんにちょっとドキッとするとか、そういう気の迷いってやつなんだ!
そう自分に言い聞かせて、俺は力の限り叫びながらひたすらに走った。

こうして俺は、一先ず運命の出会いってのを体験したわけだ



其の一、



『若気の至り、的かなと』
「ちげぇって、思いっ切りテンパってたんだよ」
『…?』
「あぁ、焦ってたって意味」』
『…そう。
…最初、変な餓鬼だなって。でも、見えてるとは思ってなかった』
「あ〜…バッチリ見えてました」
『……無視、酷い』
「…ごめん」
『ん』





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
これはグリーンの家をお化け屋敷にすることが目的のお話です




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