ぼくは簡単なミスを数回。アオイは最後の辺りにある難しい問題が解けなかった。
ぼく達のライバルという称号の始まりは、こうしてお互い−5点をもらってしまった時だったと思う。
緊張が解けて眠くなってきたぼくをびしっと指差したアオイの表情は、不満を全面に押し出したものだった。



気ままに歩いて、バトルをして、みんなとの食事を楽しんで
無理ない歩調はとても自分でいられる。だから好きだ。息を切らして走るのはどうにも性に合わない。
だけど、逆にどこかのだれかさんは、息を切らして無理をして、そうまでして欲しいのは相変わらず100点らしくて
いったいなにをどうしたいの?と問い掛けたくて仕方なくなる時もある。完璧主義者は楽なんてできないから、きっと疲れるだろうに

意気揚々としてるように見えてボロボロなアオイを見つめた。不思議と赤くなる顔はやっぱり疲ればかり溜まっているように見えて、ぼくはちゃんと寝なよと一応の忠告をした。するとまた変な勘違いを始めて、結局バトルをすることになって、またぼくの心配はアオイの意識から消える。
疲れたら寝ればいい。一日ぼーっと休んだっていい。ぼくは旅をそういうものだと思っているけど、アオイはそんな意見を聞いてはくれない。

「どうして伝わらないのかな」

ポケモンセンターのふかふかベットにピカチュウと寝転がって、なんとなくそう呟いた。なんだかピカチュウに相談してるみたいで少し可笑しかったけど、ピ?と、どうしたの?と聞いてくれているように首を傾げるピカチュウに、ぼくはおとなしく人間関係の相談をしてみることにした。

「アオイの無理は、自然体でやってるんじゃないと思う」

アオイは、アオイ自身を偽っている気がしてならない。
なんのために100点を取りたいのか、そもそもそれは本当にアオイのやりたいことなのか、ぼくは知らない。そもそも旅を始めてから、アオイの切羽詰まったような焦っているような、それでいて疲れた顔ばかり見ている。偉そうな態度が強がりなのは目に見えていた。

「またアオイの笑う顔が見たいな…」

いっぱい笑って、泣いて、怒られて、仲直りしてまた笑ったあの日みたいに

「直接こう言えたらいいんだけどね」

まだ気恥ずかしさなんてあったらしいむず痒い感情は、馬鹿馬鹿しくて自分のことなのに笑えてくる。どうしてアオイにだけこうなのか、ぼくには理由がよく解らなかった。
さっきの言葉がアオイに届いたりしないかなとピカチュウに問い掛けても、なんだか呆れたようなため息だけをピカチュウは零した。相談は失敗かな、と思った所で、ピカチュウはぼくを尻尾でペチンと叩いた。
ピィカ、と手の甲をぺちぺちし続ける姿が、ぼくを激励してくれているように見えたのは、錯覚なのか伝わる意思なのか(後者だと嬉しいけれど)

「ありがとう…ぼく、頑張るよ。言葉が無理なら、ぼく自身で伝えてみる」

器用に生きられなくても、完璧じゃなくても、誰かが望まなくても、気ままにやりたいことをやっていいんだよ。と

数年後、『お前みたいな生き方が最初からできる奴なんてそうそういねぇよ』と笑われることも知らず、ぼくはそう決意していた。
そんなアオイに、今はどうなのと聞いてみる。
少し気恥ずかしそうにしながら、『…お前の影響だよ、バカ』と優しく微笑んでくれることを、あの日のぼくにも知ってほしくなった。





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
No Logic風味
まだ青臭いカエデの話




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