冬の空、遅い帰り道
いつも通りの二人で一つの自転車が、街灯も少ない道を駆けていく。
さみぃと人が居ないのをいいことに叫ぶ運転手の背を風除けにするためしがみ付いた僕はそうだねと相槌を打つだけ。寒くなんてないから気持ちは籠らない

からから。ギアとチェーンの回る音が響く道の横、流れる水の流れのその上をふと眺めた
熱から離れた頬はすぐさま触れた空気に冷やされていくけれど、それよりも

「…ねぇ」
「ん?」
「よこ、」
「…月でも見えたか?」
「うん。二つ」
「ふたつ?」

そう。見てと促す。だって二つ目がいつまで現れていてくれるかわからない。
安全運転を心掛けているらしい運転手には申し訳ないけれど、いますぐこの美しさを分かってほしい
伝わったのかそろりと首を動かした。彼は水面を、僕は彼の横顔を見つめる

「へぇ…すげぇな」
「でしょ」

綺麗な黒の空を写した鏡月。橙かかった今日の夜の光源はまるく輝いている。
優しい光と揺れる光、思わずため息を吐きたくなった。

「…どっちが好き?」
「と、おっしゃいますと?」
「二つの、どっちが綺麗?」

もう行く道の先を向いてしまった彼に投げかけた問い
共感してくれたのか優しい声で、分かっているだろうに詳細を問い返す茶化した声に答えて、彼の次を待つ。

「どっちだろうなぁ…あ、」
「…どっち?」
「やっぱお前が一番だ」

息が、少し詰まった。
どうしてそんな台詞が口から出てくるのか甚だ疑問だ。それにちゃんと選択肢の中から答えろ
そう、言うべきなのに

「…そう」

そのとき冷えた肺から喉を震わせにやってきた空気の量では、一言しか呟けなかった








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帰り道に川に映った満月(?)を見たので




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