「…フラれちゃったんだ。」
随分前の話、だけどね。
そう言って悲しげに微笑むレッドさんを見て、私は悲しみよりも先に深い怒りを覚えた。
なにやってんだあのウニ頭



「会いに行ってないんでしょう?」
「…」
なんでバレたと言いたげに驚いた後、苦虫を噛み潰したようになった表情。くるくると様々に変わる彼のそれは、ただ黒い感情を募らせるだけだった。
敬語すらギリギリの理性で、でも私は伝えなければならない。あの人が悲しい思いをしている姿なんて、恋い焦がれるこの身としては絶対に見たくなかった。させたくなかった。

「私はちゃんと貴方に言いました。シロガネ山に居たと」
「…」
「探してたって、嘘だったんですか?」
「違う!ただ俺は…」
「怖くなったんですか?」
自分が突き放したから、あの人を傷つけたから、なんて
「そんな言い訳が通用するとでも?!」

あの人は貴方を想って傷ついているのに、この人は臆病故にそれを3年間も見過ごしている。

「私は貴方を許しません。」
「…」
「私が、貴方の代わりになってやる。」

俯いていた顔が上がる。
今更驚いたって無駄だ。私はもう決めたんだから。

「貴方がしなかった事が、私にはできる。」
「お前、なに言って…」
「あの人の中の貴方を消してあげる。」
「!」
「あの人を傷つける存在を、私は絶対に許さない。」
「…」
「貴方は邪魔なんです。」
だからせいぜい、ウジウジと悩みながら見ていてください。

「後悔させてあげますから」
ニヤリと自然に上がる口角。ゾッと青ざめた表情を見て、私はこの人への怒りが霧散していくのが分かった。


「それじゃ、さよなら」
こんなお馬鹿さんはもう放っておこう。今は一秒でも早く、寂しがっているあの人を抱きしめてあげなければ。

「あ、そうそう。」
でもやっぱり、最後の希望くらいは置いといてやろうか。

「レッドさん、3年前誰かにフラれたらしいですよ。」

そう言い残して、私は二度と来ないであろうトキワジムを去った。






.