覚えているか、と
自分を抱きしめているグリーンが、ぎゅっと腕に力を込めながら問い掛けてくる。胸に顔を押し付ける形にさせられていて、グリーンの表情は望めない。
困った。思った時には補足が入った。

「俺のこと、見ないで思い出せるか?」

声はどうしようもない程甘く優しい音をしていた。促されて目を閉じ、記憶の中に居る様々な姿のグリーンをはっきりとした縁に入れる。
幼いグリーン、今のグリーン、バトルの特別な表情、怒鳴る眉間の皺とため息、性欲に忠実になった獣の瞳、優しい微笑み
絵画にも映像にも出来る。永く染み付いた消えないそれを確認して、頷いた。

「はっきりと?」
「うん」
「忘れられないくらいには?」
「………うん」
「…そっか」

妙に照れ臭かったが、腕の締め付けが緩い抱擁に変わればそれでよかった。痛いと訴えても無駄なことは解っていて、原因さえ消えれば痛みも消えると解っている。
無事消えてよかった。安心して緩い腕の拘束域を広げようと突いた手は、一瞬で取られ、纏められ、床に二人で倒れ込んだ。正確には押し倒された。

グリーンは記憶と寸分違わない笑顔だった。
これが、今回はどう変わるのだろう。情欲に瞳が塗れるのか、からかい気に唇が歪むのか。
微動だにしないで観察していると、グリーンはポケットから、折り畳まれた銀色を取り出した。ぱちんと軽い固定音で刃は現れ

「なら、いいよな」

グリーンは笑顔のままだった。
楽しそうに、愛しそうにするまま、銀色だけが近づいてくるものだから
最後は冷たい銀色より、大好きな緑色を思い浮かべたいなと、目を再び閉じたまま、めのまえはまっくらになった





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
もう誰も見ないで
記憶の中で俺だけを見て
…と、おっしゃりたい緑氏




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