売店で買ったパンが、意外と腹にこなかった。
物足りない。腹の足しが欲しい。そう思いながらも、屋上から戦場跡になっている売店まで、僅かな希望を胸に走ることはとてつもなく億劫だった。
気分をごまかせるゲーム機を教室に置いてきてしまったレッドは仕方なく、スラックスのポケットに突っ込まれたまま朝から放置されていた携帯を取り出した。隣の相方は現在読書中で、戯言を投げ掛ければ辛言となって打ち返ってくることは目に見えていた。無用な喧嘩の種は(ただでさえ多いのだから)摘んでいくべきだという判断だ。

ネットワークメニューを呼び出して、最近流行りのSNSに繋ぐ。この類いはこんな時の暇つぶしのために存在するとレッドは考えていたが、なんとなく認識が教えてくれた友人とは異なっているのを感じていた。

(こんな服一着に300円とか…ハンバーガー食えちゃうじゃん)

しかも一式揃えるのにファミレスで夕飯を食べていく程度にはかかった。わけがわからないとレッドは頭を横に振る。

(こんなの買うより…そう、ハンバーガーが食いたい)

微妙な空腹感は空想を加速させた。データにかける300円よりはるかに価値のあるそれは舌に馴染みきっている。かぶりついた食感と、ジャンクフードらしい味の追憶は容易だった。

(あ〜腹減ってきた気がする。帰り寄ってこうぜ…っと、そうでした)

眉目秀麗な相方は、真剣さを感じる目つきで本と睨めっこを続けているのだ。口のチャックをギリギリ閉めたレッドは、危ない危ないと内心息を吐いた。更にげんなりとしてきた最中に、綺麗なその面構えで睨まれてはたまったものじゃない。精神にパラメータがあるなら削り切られてしまうだろう。

(よし…オレは腹減ってない。むしろ腹いっぱい。大満足なのでハンバーガーなんか今は欲しくありません…)

レッドは携帯を閉じて目を瞑り、自らに暗示をかけはじめる。無理だと食欲が訴えても、やれるだけのことはやらなければ気が済まなかった。
雑念を払うように集中し始め、『大丈夫だ!問題ない!』という宣言を頭ないし体中に回そうとした、その時

レッドの唇にやわいものが触れた気がした。
いや、気がしただけではなかった。レッドはこの感触を、もしかするとジャンクフードの味以上によく知っているからだ。なにかの間違いであるはずがない。
瞬間の確信に慌てたレッドは、集中も暗示も宣言も忘れて目をカッと開いた。
するとあっさり離れてまた元の位置に戻るのだから、レッドが混乱して喚いても、仕方のないことだろう。

「グリーン!なにすんだよ!」
「お前はそのまま寝るタイプだろう」
「決め付けんな!あ〜もうあとちょっとだったのに!」
「放課後なら付き合う。それまではなんとかやり過ごせ」
「…は?」
「ハンバーガーくらいなら奢ってもいいが?」

にやりと笑うところを見ると、レッドの暗示は無意識に声になっていたようだ。ぽすぽすとからかうように頭を撫でられるあまりの羞恥に、レッドが『ポテトとシェイクも!』と真っ赤な顔で叫び、グリーンはそれを微笑みながら了承した。
本には、しっかりと栞が挟まっていた。







なんかよくわからん。これ皆様が思ったでしょうが、俺もそう思います。
グリーンさんはいつでもレッドさんを構える状態で、上記の奇っ怪な行動をするレッドさんをにやにやと見ていたわけですな。性悪〜
…ってか、俺の中のスペグリレってこんなんなのか…




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