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[mokuji]
黒子は座棺に押し込められていた。
座棺は座ったまま死者を納める棺桶のことだ。
その桶に棒を二本渡し担ぎ、紅様の祠へと運ぶ。
蓋がきっちりと閉められているため、中からは見えないのだが道中は山道だ。
傾斜や険しい道のりに桶は不安定に揺れ、肩や頭を幾度もぶつけてしまう。
しかし今の黒子にはそれを庇う術がない。
すぐに死ぬことが定められた身。鬱血し、どす黒く変色するのも構わずにギリギリと縛り上げられた腕はピクリとも動かせない。脚もまた同様だ。
ガコン、と一際大きく揺れ、桶が地面に下ろされた。そしてそのまま倒される。
必然的に中の黒子も転がるはめとなり、頭と板の間で鈍い音をたてた。
桶の中に光が差し込む。蓋が開けられた。
新鮮な空気を吸い込む間もなく、引きずりだされ、祠の前へ突き飛ばされた。
人とは思っていない手荒な扱いだ。
受け身をとることの出来ない黒子は、それでもなんとか肩から地面へぶつかった。
肩の骨が軋む。そんな黒子を一瞥すると、村人の一人は、
「どうせ身寄りのない忌子だ。死んでもだれも構わんのだ。もっと早くにこうするべきだったわい」
とせせら笑う。
彼らの行動は八つ当たりに近い。
供物のおかげで当たり前のように恩恵を受ける村では飢える、不作というものが基本的にない。災害が起きようとも、供物を捧げれば数日のうちに元にもどる。
増えることはあれど減ることはないのだ。
それ故に強欲に貪欲になり、早く供物を捧げたら災害が1日でも減らせ、生贄には余分な食料を与えずに済んだ、という考えのほうが強い。
そうでなければ他人を次々と犠牲になどしないのだろうが――。
「何も言えんのか!」
肩を蹴られ黒子は地面を転がった。ギシギシと強ばった関節が厭な音を響かせる。
それでも表情を変えぬ黒子に村の役人は顔を侮蔑の表情に歪ませた。「フンッ! 気持ちの悪いガキだ。最後に村の役に立てることを感謝しろ!」
忌々しそうにそう吐き捨てると黒子を残し下山していく。
砂利を踏む音が遠ざかり、消えた。
空を覆う木々、薄暗い視界。
通り抜ける風に祠の戸が軋む音が聞こえる。寂しい場所だ。
黒子は芋虫のように這いずり、祠の横の大きな岩へ寄りかかった。
ひんやりと湿ったそれに背を預け、空を仰ぎ見る。
夜へ傾き始めた空は鮮やかな茜に染まっているのだろう。
せめぎあう葉の隙間から、紅い光が一筋垂れ込んでいた。
座棺は座ったまま死者を納める棺桶のことだ。
その桶に棒を二本渡し担ぎ、紅様の祠へと運ぶ。
蓋がきっちりと閉められているため、中からは見えないのだが道中は山道だ。
傾斜や険しい道のりに桶は不安定に揺れ、肩や頭を幾度もぶつけてしまう。
しかし今の黒子にはそれを庇う術がない。
すぐに死ぬことが定められた身。鬱血し、どす黒く変色するのも構わずにギリギリと縛り上げられた腕はピクリとも動かせない。脚もまた同様だ。
ガコン、と一際大きく揺れ、桶が地面に下ろされた。そしてそのまま倒される。
必然的に中の黒子も転がるはめとなり、頭と板の間で鈍い音をたてた。
桶の中に光が差し込む。蓋が開けられた。
新鮮な空気を吸い込む間もなく、引きずりだされ、祠の前へ突き飛ばされた。
人とは思っていない手荒な扱いだ。
受け身をとることの出来ない黒子は、それでもなんとか肩から地面へぶつかった。
肩の骨が軋む。そんな黒子を一瞥すると、村人の一人は、
「どうせ身寄りのない忌子だ。死んでもだれも構わんのだ。もっと早くにこうするべきだったわい」
とせせら笑う。
彼らの行動は八つ当たりに近い。
供物のおかげで当たり前のように恩恵を受ける村では飢える、不作というものが基本的にない。災害が起きようとも、供物を捧げれば数日のうちに元にもどる。
増えることはあれど減ることはないのだ。
それ故に強欲に貪欲になり、早く供物を捧げたら災害が1日でも減らせ、生贄には余分な食料を与えずに済んだ、という考えのほうが強い。
そうでなければ他人を次々と犠牲になどしないのだろうが――。
「何も言えんのか!」
肩を蹴られ黒子は地面を転がった。ギシギシと強ばった関節が厭な音を響かせる。
それでも表情を変えぬ黒子に村の役人は顔を侮蔑の表情に歪ませた。「フンッ! 気持ちの悪いガキだ。最後に村の役に立てることを感謝しろ!」
忌々しそうにそう吐き捨てると黒子を残し下山していく。
砂利を踏む音が遠ざかり、消えた。
空を覆う木々、薄暗い視界。
通り抜ける風に祠の戸が軋む音が聞こえる。寂しい場所だ。
黒子は芋虫のように這いずり、祠の横の大きな岩へ寄りかかった。
ひんやりと湿ったそれに背を預け、空を仰ぎ見る。
夜へ傾き始めた空は鮮やかな茜に染まっているのだろう。
せめぎあう葉の隙間から、紅い光が一筋垂れ込んでいた。
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