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[mokuji]
今でも彼が突然姿を消したことは許していないし、何故居なくなったのかもきっと理解できない。
それどころか酷い裏切り行為だと今でも思っていた。
勝手に居なくなったことを詰ってしまうかもしれない。
しかし、どれだけ彼を恨んでも、酷い言葉をぶつけて、彼を傷つけるのは怖い。
怖いけれど、このまま無くしてしまうのはもっと嫌なのだ。
隣にいるのが当たり前すぎた。
黄瀬の世界に黒子の存在は大きかった。
誕生日を祝いたいだけじゃない。聞きたいことは山ほどある。
高校はどこに行くの?
どうして俺を置いていったの?
どうして何も言ってくれなかったの?
黄瀬は他のメンバーに比べ、黒子と過ごした期間は短い。
しかしその中でも一番彼に懐いていたのは自分だと黄瀬は思う。
そうでなければ、ほんの数ヶ月彼に会えないだけで、こんな迷子の子供みたいに不安にならない筈だ。
黄瀬は自分が思うより黒子に依存していたことに気が付き、苦笑するしかなかった。
今日も白亜の校舎の中、その姿を探すが、そもそも彼を見つけるのは至難の技。
ましてや意図的に姿を消されているのだから、バスケットボールコートの区切られ開けた空間と違い、入り組んだ校舎ではほぼ不可能だ。
もちろん確実に使うであろう昇降口や教室前で張り込んだこともあったのだが、何故か彼の姿をみることは叶わなかった。
正直お手上げである。
黒子なら行きそうだと思った図書室にもその気配はなかった。
結局間に合わなかった。
埃っぽく、インクと微かな黴の匂いのするそこは黄瀬にとってとても居心地のいいといえるような場所ではない。
入り口から死角となる角の閲覧スペースが黒子のお気に入りだった。
人気のない図書室の中でもさらに目立たなく、その割には日当たりがいい場所だ。
スチールイスをひき、そこに腰掛ける。
彼の座った席。
彼の見た景色。
彼と同じものを見たとしてもその気持ちなど黄瀬にはわかるはずもなかった。
黄瀬は机に文庫本が置き去りにされていることに気がついた。
黒子がよく読んでいたものだ。どうやら行き違ったらしい。
ラストチャンスをこんな形で逃すなんて―。
黄瀬はうなだれつつ、文庫本を手に取った。
年季の入ったそれは、やけて黄色く変色している。
ざらりとして埃っぽい裏表紙をめくると古い貸し出しカードが挟まっていた。
去年黄瀬が落書きしたものである。
今は全てバーコード化しているため使われていないのだが、回収されず去年のまま残っていたらしい。
本と一緒に、落書きも、黄瀬の心も置き去りにされたように思えた。
誰にも見られないように、破ってしまおうか。
贈る相手の居なくなった言葉を残しておくのも虚しく思い、黄瀬はオレンジの袋から抜き取る。
カードの下部を見て、黄瀬は目を瞬かせた。
オレンジ色の筆跡の下。
去年の落書きの下に、彼らしい几帳面な字が増えていた。
『また来年』
たった四文字。
ただそれだけなのに、会いたかった彼の存在を感じて、黄瀬は泣いた。
このまま卒業まで彼には会えないと思う。
それでも“また”があることを黒子は教えてくれた。
きっと黒子はバスケをやめることはない。
何の根拠もない勘だが黄瀬は確信している。
「来年待っててね、黒子っち」
それどころか酷い裏切り行為だと今でも思っていた。
勝手に居なくなったことを詰ってしまうかもしれない。
しかし、どれだけ彼を恨んでも、酷い言葉をぶつけて、彼を傷つけるのは怖い。
怖いけれど、このまま無くしてしまうのはもっと嫌なのだ。
隣にいるのが当たり前すぎた。
黄瀬の世界に黒子の存在は大きかった。
誕生日を祝いたいだけじゃない。聞きたいことは山ほどある。
高校はどこに行くの?
どうして俺を置いていったの?
どうして何も言ってくれなかったの?
黄瀬は他のメンバーに比べ、黒子と過ごした期間は短い。
しかしその中でも一番彼に懐いていたのは自分だと黄瀬は思う。
そうでなければ、ほんの数ヶ月彼に会えないだけで、こんな迷子の子供みたいに不安にならない筈だ。
黄瀬は自分が思うより黒子に依存していたことに気が付き、苦笑するしかなかった。
今日も白亜の校舎の中、その姿を探すが、そもそも彼を見つけるのは至難の技。
ましてや意図的に姿を消されているのだから、バスケットボールコートの区切られ開けた空間と違い、入り組んだ校舎ではほぼ不可能だ。
もちろん確実に使うであろう昇降口や教室前で張り込んだこともあったのだが、何故か彼の姿をみることは叶わなかった。
正直お手上げである。
黒子なら行きそうだと思った図書室にもその気配はなかった。
結局間に合わなかった。
埃っぽく、インクと微かな黴の匂いのするそこは黄瀬にとってとても居心地のいいといえるような場所ではない。
入り口から死角となる角の閲覧スペースが黒子のお気に入りだった。
人気のない図書室の中でもさらに目立たなく、その割には日当たりがいい場所だ。
スチールイスをひき、そこに腰掛ける。
彼の座った席。
彼の見た景色。
彼と同じものを見たとしてもその気持ちなど黄瀬にはわかるはずもなかった。
黄瀬は机に文庫本が置き去りにされていることに気がついた。
黒子がよく読んでいたものだ。どうやら行き違ったらしい。
ラストチャンスをこんな形で逃すなんて―。
黄瀬はうなだれつつ、文庫本を手に取った。
年季の入ったそれは、やけて黄色く変色している。
ざらりとして埃っぽい裏表紙をめくると古い貸し出しカードが挟まっていた。
去年黄瀬が落書きしたものである。
今は全てバーコード化しているため使われていないのだが、回収されず去年のまま残っていたらしい。
本と一緒に、落書きも、黄瀬の心も置き去りにされたように思えた。
誰にも見られないように、破ってしまおうか。
贈る相手の居なくなった言葉を残しておくのも虚しく思い、黄瀬はオレンジの袋から抜き取る。
カードの下部を見て、黄瀬は目を瞬かせた。
オレンジ色の筆跡の下。
去年の落書きの下に、彼らしい几帳面な字が増えていた。
『また来年』
たった四文字。
ただそれだけなのに、会いたかった彼の存在を感じて、黄瀬は泣いた。
このまま卒業まで彼には会えないと思う。
それでも“また”があることを黒子は教えてくれた。
きっと黒子はバスケをやめることはない。
何の根拠もない勘だが黄瀬は確信している。
「来年待っててね、黒子っち」
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