winter comes around again
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中2の頃の付き合ってる黄黒
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夏から引きずっていた陽気はいつの間にか消えていた。
秋めいた気候はあっという間に過ぎ去り、11月に入ると急激に冷え込みが増し、日が暮れてしまえば一層冷たくなった風が体温を奪う。
黄瀬はふるりと身を震わせた。
部活動後のシャワーのせいで未だ半乾きの髪の毛が冷たい。
ちらりと傍らを並んで歩く小さな影に視線をおとす。
淡い髪色の旋毛が見える。彼もまた冷え切った体を温めようと白い息を指先に吹き掛けている。
もともと肌の白い黒子は青白く見えるほどだ。
段階を踏まない季節の変動に対応ができていない。冬服に切り替わったといっても十分な防寒対策をとれていないのだ。
その寒そうな白い首筋をさらけ出したままになっていた。
「寒いっスね」
「ええ。もうコートとか手袋とか用意しないといけませんね」
「コートはまだいいんじゃないっスか? 朝は荷物になるっスよ」
「そうですか?」
ポツポツと言葉を交わしながら暗い道を歩く。
こんな気候だからか人通りも少ない。
吹き抜ける風の音。カサカサに乾いた葉っぱを揺らす街路樹。誰もいない公園。
いつもの帰り道なのに、なにもかもが静かだ。二つ目の角を曲がって数メートル。
街道沿いにあるコンビニの電灯が煌々と輝いているのが見えた。
暖かな光は、ひどく蠱惑的に視覚を刺激する。
同時にお互いの顔を見つめた。二人は同じ考えをしていたらしい。
「……コンビニ、寄らないっスか?」
「いいですね」
温かいものを買いましょう。と頷き、二人は灯かりを目指した。
黄瀬は温かい缶のココアと肉まんを、黒子は缶のコンポタと購入した。
白い湯気が揺らめいて消える。
黄瀬は缶ココアを制服のポケットに突っ込むと肉まんを頬張った。
少し甘い皮に熱々の肉餡がたっぷりと詰まっている。
それらが喉を通り胃に落ちると、じんわりと熱が冷えた身体に染み込んでいくのがわかった。
冬の帰り道に食べる肉まんは格別だ。
黒子は缶を手のひらで包み込み暖をとっていた。
「夏のアイスもいいっスけど、冬の買い食いもいいっスよね」
「寒くなるので今はアイスの話はやめて下さい」
「じゃあバニラシェイクは?」
「あれは別格です」
黄瀬が肉まんを食べ終える頃、漸くプルタブをあけた黒子はコンポタを一口含んだ。
こくんと剥き出しの白い喉が上下する。
――目の毒だ。
そうは思いながらも、黄瀬は視線を逸らすことができなかった。
不躾な視線に黒子も気がついたようで「なにか?」と首を傾げながら問う。
「えと、首、寒そうっスね」
「ああ。マフラーも用意しないとですね」
黒子の頼りない手が首をかく。揺れた冷たい色の髪のせいで、そこは一層寒々しく見えた。
――暖めなければ。
そう思った黄瀬は思わず黒子の首に手を延ばしていた。
手のひらが首筋に触れる。
触れた瞬間、ピクリとはしたものの、黒子はされるがままにした。
とくとくと脈の動きが伝わる。
「あったかいっスか?」
「くすぐったいです。でもあったかいですよ」
暖かい手のひらが気持ちよいのか猫のように目を細めた。
表情の乏しい黒子のこういう表情は“くる”ものがあると黄瀬は思う。
するすると首に這わせていた手を上へ登らせる。
手触りのいい頬。まだ甘い輪郭を辿り、掬うように顎を持ち上げたところで黒子のストップが入った。
「何をする気ですか」
アイスブルーの目が非難の色を帯びている。
「ダメっスか?」
黄瀬の眉毛が情けなくハの字にさがった。
まるでお預けをくらった犬のような哀愁が漂い同情を誘うが、すでに慣れた黒子には効果はなく「駄目です」と手を払いのけた。
「家に帰ってから、なら、…………いいです」
拒絶され、しょんぼりとしていた黄瀬だが、恥ずかしそうに呟く黒子の姿を見て思わず目を剃らし口元に手をやった。
血液が一気に顔に集まるのがわかる。
「……楽しみに、してるっス」
黒子の方を見ないまま、黄瀬はその白い手をとる。
抵抗は、ない。
脈拍が、熱が共有される。
白い頬と耳が朱に染まってた。
もう、冬が近い。
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夏から引きずっていた陽気はいつの間にか消えていた。
秋めいた気候はあっという間に過ぎ去り、11月に入ると急激に冷え込みが増し、日が暮れてしまえば一層冷たくなった風が体温を奪う。
黄瀬はふるりと身を震わせた。
部活動後のシャワーのせいで未だ半乾きの髪の毛が冷たい。
ちらりと傍らを並んで歩く小さな影に視線をおとす。
淡い髪色の旋毛が見える。彼もまた冷え切った体を温めようと白い息を指先に吹き掛けている。
もともと肌の白い黒子は青白く見えるほどだ。
段階を踏まない季節の変動に対応ができていない。冬服に切り替わったといっても十分な防寒対策をとれていないのだ。
その寒そうな白い首筋をさらけ出したままになっていた。
「寒いっスね」
「ええ。もうコートとか手袋とか用意しないといけませんね」
「コートはまだいいんじゃないっスか? 朝は荷物になるっスよ」
「そうですか?」
ポツポツと言葉を交わしながら暗い道を歩く。
こんな気候だからか人通りも少ない。
吹き抜ける風の音。カサカサに乾いた葉っぱを揺らす街路樹。誰もいない公園。
いつもの帰り道なのに、なにもかもが静かだ。二つ目の角を曲がって数メートル。
街道沿いにあるコンビニの電灯が煌々と輝いているのが見えた。
暖かな光は、ひどく蠱惑的に視覚を刺激する。
同時にお互いの顔を見つめた。二人は同じ考えをしていたらしい。
「……コンビニ、寄らないっスか?」
「いいですね」
温かいものを買いましょう。と頷き、二人は灯かりを目指した。
黄瀬は温かい缶のココアと肉まんを、黒子は缶のコンポタと購入した。
白い湯気が揺らめいて消える。
黄瀬は缶ココアを制服のポケットに突っ込むと肉まんを頬張った。
少し甘い皮に熱々の肉餡がたっぷりと詰まっている。
それらが喉を通り胃に落ちると、じんわりと熱が冷えた身体に染み込んでいくのがわかった。
冬の帰り道に食べる肉まんは格別だ。
黒子は缶を手のひらで包み込み暖をとっていた。
「夏のアイスもいいっスけど、冬の買い食いもいいっスよね」
「寒くなるので今はアイスの話はやめて下さい」
「じゃあバニラシェイクは?」
「あれは別格です」
黄瀬が肉まんを食べ終える頃、漸くプルタブをあけた黒子はコンポタを一口含んだ。
こくんと剥き出しの白い喉が上下する。
――目の毒だ。
そうは思いながらも、黄瀬は視線を逸らすことができなかった。
不躾な視線に黒子も気がついたようで「なにか?」と首を傾げながら問う。
「えと、首、寒そうっスね」
「ああ。マフラーも用意しないとですね」
黒子の頼りない手が首をかく。揺れた冷たい色の髪のせいで、そこは一層寒々しく見えた。
――暖めなければ。
そう思った黄瀬は思わず黒子の首に手を延ばしていた。
手のひらが首筋に触れる。
触れた瞬間、ピクリとはしたものの、黒子はされるがままにした。
とくとくと脈の動きが伝わる。
「あったかいっスか?」
「くすぐったいです。でもあったかいですよ」
暖かい手のひらが気持ちよいのか猫のように目を細めた。
表情の乏しい黒子のこういう表情は“くる”ものがあると黄瀬は思う。
するすると首に這わせていた手を上へ登らせる。
手触りのいい頬。まだ甘い輪郭を辿り、掬うように顎を持ち上げたところで黒子のストップが入った。
「何をする気ですか」
アイスブルーの目が非難の色を帯びている。
「ダメっスか?」
黄瀬の眉毛が情けなくハの字にさがった。
まるでお預けをくらった犬のような哀愁が漂い同情を誘うが、すでに慣れた黒子には効果はなく「駄目です」と手を払いのけた。
「家に帰ってから、なら、…………いいです」
拒絶され、しょんぼりとしていた黄瀬だが、恥ずかしそうに呟く黒子の姿を見て思わず目を剃らし口元に手をやった。
血液が一気に顔に集まるのがわかる。
「……楽しみに、してるっス」
黒子の方を見ないまま、黄瀬はその白い手をとる。
抵抗は、ない。
脈拍が、熱が共有される。
白い頬と耳が朱に染まってた。
もう、冬が近い。
[mokuji]