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[mokuji]
体育館にはちらほらと部員が集まりだした。
そろそろ着替えて体育館へ向かわねばならない。
ごちゃごちゃと仮装をしている黄瀬と青峰は特に着替えに手間取るだろう。
部活用のTシャツに着替えるべく。各々がロッカーへ向かおうとした時だった。
「trick or treat」
凛とした声が部室に響いた。
今度は二人が目を瞬かせる番だ。
「え、なんスか赤司っち……」
嫌な予感に黄瀬の顔が引きつる。
彼は決してこのお巫山戯を容認した訳ではなかったのだ。
「trick or treat。二人は何をくれるんだ?」
ぴしり、と空気が凍る。
「な、何も用意してないっス!」
「あー……仕掛けることばっか考えてたしな」
オロオロと鞄を探るが生憎そういう類いのものは入っていない。
黒子に助けを求めるように視線を送るが、彼も先ほど無いと答え女装用の衣装を押し付けられたばかりだ。
「ないんだね?」
冷たい声が鼓膜を揺さぶる。
「あ、え、あ! この飴は」
「却下だ。俺が折角あげたのに返品しようっていうのか?」
「滅相もないっス!」
なにか逃げ道は無いか。必死に辺りを見回すがめぼしいものは無い。
「ないんだね?」
「……はいっス」
しょんぼりと答える黄瀬と、もうどうにでもなれといった様子の青峰。
「じゃあイタズラだ。今日の練習は二人ともその格好のまま出ること」
「え!?」
「なんだそれだけか」
意外と優しい注文に青峰は拍子抜けした顔をした。
「お前は特別メニューもあるしな」
簡単だろ? と笑う赤司に黄瀬は首を横に振った。
「いや、無理無理ムリっス! 絶対ムリっス!」
青峰の衣装はまだいい。
彼の狼男の衣装は頭部は狼の耳を付け、顔に鼻を付けただけだ。
下は毛皮で暑いだろうが今は10月末。気候もそれなりに涼しいからそれほど苦ではない。
問題は黄瀬だ。
被り物のカボチャはくり抜かれた穴から覗くしかないためため視界が極端に狭い。
さらに動くたびにぐらぐらと揺れて安定感が悪いのだ。
衣装自体は青峰のそれより身軽だが視界を塞がれるのは他者を模倣するプレイの黄瀬には致命的とも言える。
しかしそんなことで許す赤司ではなかった。
「僕の言うことは?」
「ぜ……絶対、っス」
「もちろんゲーム中もそのままだ。ミスなんかしたら――わかってるな?」
衣装を着ても着なくても赤司は魔王だ――。
そう、喜瀬は確信した。
仮装のまま出て行く二人を眺め、女装を免れた黒子はほっとしていた。
あの様子なら、部活が終わっても黒子の仮装のことなど忘れているだろう。
それよりも今は部活だ。
二人を追いかけるべくいつものTシャツに手をかけた。
しかし――。
「黒子」
「はい?」
その腕を赤司に押さえられてしまた。
「何か忘れているんじゃないか?」
「? 何をですか?」
「とても大きな忘れ物だ」
黒子は訳がわからない、と赤司を見上げる。
オッドアイが猫のように爛々と輝いていた。まるでイタズラが成功した子供みたいに――。
「お菓子がなかったなら、イタズラを受けるべきだろ?」
「え――――」
ぱさりと手元に落とされたのはあの魔女っ子衣装だった。
+++
――その日の部活は、黒子たち3人にとって散々なものとなった。
超過酷メニューをこなす青峰は、そのハードさと動きにくい毛皮の効果も相まって珍しく体育館の隅で伸びることになる。
カボチャの黄瀬は人にぶつかり、ボールを取り損ね顔面(カボチャだが)にボールを受けたりと、案の定盛大なミスを連発した。当然更なるペナルティが課され半泣きだ。
とばっちりを受けて女装をさせられた黒子は、慣れないスカートを気にし自由に動けなくなった。
更にその衣装により影の薄さが相殺されミニゲームでは苦戦を強いられる。
なにより仮装は他の部員達の視線が精神的に痛い。
狼男はまだしも、カボチャ女装は悪い意味で目立つ。
普段人の視線など受け慣れていない黒子にとっては大いに心的負担となった。
赤司は、と言えばもちろん他のキセキでもある紫原と緑間にもTrick or Treatをふっかけた。
が、紫原は常にお菓子を持ち歩いているため無事仮装を回避し。緑間は安定のおは朝のアイテムのおかげで難を逃れている。
緑間の「道理でラッキーアイテムがお菓子ばかりだったわけなのだよ」という呟きに少しおは朝を信じてみようかと思う黒子たちだった。
そろそろ着替えて体育館へ向かわねばならない。
ごちゃごちゃと仮装をしている黄瀬と青峰は特に着替えに手間取るだろう。
部活用のTシャツに着替えるべく。各々がロッカーへ向かおうとした時だった。
「trick or treat」
凛とした声が部室に響いた。
今度は二人が目を瞬かせる番だ。
「え、なんスか赤司っち……」
嫌な予感に黄瀬の顔が引きつる。
彼は決してこのお巫山戯を容認した訳ではなかったのだ。
「trick or treat。二人は何をくれるんだ?」
ぴしり、と空気が凍る。
「な、何も用意してないっス!」
「あー……仕掛けることばっか考えてたしな」
オロオロと鞄を探るが生憎そういう類いのものは入っていない。
黒子に助けを求めるように視線を送るが、彼も先ほど無いと答え女装用の衣装を押し付けられたばかりだ。
「ないんだね?」
冷たい声が鼓膜を揺さぶる。
「あ、え、あ! この飴は」
「却下だ。俺が折角あげたのに返品しようっていうのか?」
「滅相もないっス!」
なにか逃げ道は無いか。必死に辺りを見回すがめぼしいものは無い。
「ないんだね?」
「……はいっス」
しょんぼりと答える黄瀬と、もうどうにでもなれといった様子の青峰。
「じゃあイタズラだ。今日の練習は二人ともその格好のまま出ること」
「え!?」
「なんだそれだけか」
意外と優しい注文に青峰は拍子抜けした顔をした。
「お前は特別メニューもあるしな」
簡単だろ? と笑う赤司に黄瀬は首を横に振った。
「いや、無理無理ムリっス! 絶対ムリっス!」
青峰の衣装はまだいい。
彼の狼男の衣装は頭部は狼の耳を付け、顔に鼻を付けただけだ。
下は毛皮で暑いだろうが今は10月末。気候もそれなりに涼しいからそれほど苦ではない。
問題は黄瀬だ。
被り物のカボチャはくり抜かれた穴から覗くしかないためため視界が極端に狭い。
さらに動くたびにぐらぐらと揺れて安定感が悪いのだ。
衣装自体は青峰のそれより身軽だが視界を塞がれるのは他者を模倣するプレイの黄瀬には致命的とも言える。
しかしそんなことで許す赤司ではなかった。
「僕の言うことは?」
「ぜ……絶対、っス」
「もちろんゲーム中もそのままだ。ミスなんかしたら――わかってるな?」
衣装を着ても着なくても赤司は魔王だ――。
そう、喜瀬は確信した。
仮装のまま出て行く二人を眺め、女装を免れた黒子はほっとしていた。
あの様子なら、部活が終わっても黒子の仮装のことなど忘れているだろう。
それよりも今は部活だ。
二人を追いかけるべくいつものTシャツに手をかけた。
しかし――。
「黒子」
「はい?」
その腕を赤司に押さえられてしまた。
「何か忘れているんじゃないか?」
「? 何をですか?」
「とても大きな忘れ物だ」
黒子は訳がわからない、と赤司を見上げる。
オッドアイが猫のように爛々と輝いていた。まるでイタズラが成功した子供みたいに――。
「お菓子がなかったなら、イタズラを受けるべきだろ?」
「え――――」
ぱさりと手元に落とされたのはあの魔女っ子衣装だった。
+++
――その日の部活は、黒子たち3人にとって散々なものとなった。
超過酷メニューをこなす青峰は、そのハードさと動きにくい毛皮の効果も相まって珍しく体育館の隅で伸びることになる。
カボチャの黄瀬は人にぶつかり、ボールを取り損ね顔面(カボチャだが)にボールを受けたりと、案の定盛大なミスを連発した。当然更なるペナルティが課され半泣きだ。
とばっちりを受けて女装をさせられた黒子は、慣れないスカートを気にし自由に動けなくなった。
更にその衣装により影の薄さが相殺されミニゲームでは苦戦を強いられる。
なにより仮装は他の部員達の視線が精神的に痛い。
狼男はまだしも、カボチャ女装は悪い意味で目立つ。
普段人の視線など受け慣れていない黒子にとっては大いに心的負担となった。
赤司は、と言えばもちろん他のキセキでもある紫原と緑間にもTrick or Treatをふっかけた。
が、紫原は常にお菓子を持ち歩いているため無事仮装を回避し。緑間は安定のおは朝のアイテムのおかげで難を逃れている。
緑間の「道理でラッキーアイテムがお菓子ばかりだったわけなのだよ」という呟きに少しおは朝を信じてみようかと思う黒子たちだった。
[mokuji]