「暑いな……」 「暑いね……」 そんなこと言っても別に太陽は聞いちゃくれないでマイペースにガンガン照ってるし、風も気を利かせてはくれないで全く吹かない。ただ、雨上がりの蒸した感じだけが、暑さに不快感をプラスしている。お前は仕事するな。 帽子を脱いでそれでぱたぱたと顔の辺りを扇ぎながら、袖を軽く肘の下辺りまで捲る。上着のチャックを少し下ろし、風を送るように扇いでみる、が、やっぱり暑い。 「こんなに暑いならもう少し早起きして早く暑くならない内にもう少し遠くに行ってれば良かったね」 目的も特にはない二人旅。実際、朝からもう少し暑かったらきっと僕らは昨日居た町にもう一泊しただろう。急ぎの用事も無いのだから。 しばらく歩いて、大きめの木の下に二人で並んで腰を下ろした。木陰になっているから、日なたよりはマシだ。でもまあ、それでも暑いって言えばそうだけど。 「本当暑いな……」 「ちょうど昼だしね。太陽が結構上にあるよ」 「夏は、嫌いだな」 「どうしてさ」 「暑いし、……それに、」 一旦立ち上がって、座っているNに被さるように抱き着く。 「……こういうの、やり辛いし。暑いから、嫌だろ?」 「嫌だなんて」 Nの腕が、僕のことを抱きしめる。 「そんなはず、無いじゃないか。こんなに嬉しいんだから」 汗ばんだシャツが張り付いて気持ち悪い。でも、Nのと触れ合った頬は汗ばんで少しべたべたするけど不快じゃない。こんな風に、Nも思ってくれているんだろうか。 「でも、確かに冬の方が良いのかな」 耳元の声に少しくすぐったさを感じる。だから、僕もそのままの体制でNの耳元に話しかける。 「冬は暖かいし、いいよな」 本当だよね。そうNは頷く。だけど離しはしないし、僕も離れようとはしない。 「でも、夏だからこそ、もあるからね。冬だと抱きしめあってても寒いから、って理由にも捉えられてしまうけど、夏になら同じ事していても意味合いが重そうに感じないかい?余り快適では無い分、行為の重みが増したように感じる気がする」 「確かに、それはあるのかも」 じゃあ、今この瞬間もそうなのかも知れない。お互い暑いって分かってて離さないこと、離したくないと思ってること。そんな小さなことだけど、そこに意味が有ると考えてみれば、それまでとは同じ行為のはずでも、何だか気持ちだけでは特別なことに感じられるようになって。 「うん……何だか、ちょっといいな」 「そうだろう?そう思えば暑さも少しはマシにならないかい?」 「うーん……それはそれ、これはこれ、だな……」 そう零せば、Nは困ったように笑った。 「そう言ってしまえばそうなんだけどね」 暑いから熱さが分かる? まあ、暑いよな。熱いし。 back |