「やっと抜けた……!」 「迷ったな」 「久々だからなあ……いつも空を飛ぶでショートカットしちまうし」 ゴールドは大きく伸びをして、 「ブラックとかなら俺の気持ち分からない?」 「あ、分かる」 「だろ?やっぱ誰もが通る道なんだって!」 ブラックの頭をぽんぽん叩き、それから近くの看板を指した。 「ここがヒワダ。なかなか田舎。……うん、田舎。確か木炭作ったりしてる。で、あとぼんぐりって木の実からボール作れるオヤジが居る。……そんぐらい」 「確かに……田舎だな」 「だろ?だから今日はもう自由行動で飽きた奴からポケモンセンターな」 最後にゴールドはボクを見て、 「Nもそれでいいか?」 と聞いてきたから、頷いておいた。 確かに風の中に何かを燃やす匂いが混ざってる気がする。 「N」 「ん、何だい?」 「ちょっと僕、この辺で頼まれごとしてるから、別行動になっちゃうんだけど……いいか?」 「え?うん、いいよ」 「悪い!行ってくる!」 ブラックはシンボラーに飛び乗り飛び去っていった。 そして、いつの間にかシルバーも居なくなっていて、その場にはボクとゴールドだけが取り残されていた。 「お前も一人?」 「あ、うん」 「じゃ一緒に居ないか?」 「いいの?」 「うん。暇だしさ、知らない土地一人って不安じゃないか?」 「ありがとう」 ゴールドはいいってことよ!と笑ってから歩きだした。 「んん……そうだな、まずはガンテツ行くと長そうだし木炭行っちゃうかな」 と、迷わず近くの扉を開けた。 「ここ、木炭作ってる。……ちっす!」 「ああ、こんにちは。……そちらは?観光?」 「ああ!遠くに住んでるダチ」 「へえ、遠くから……ここは何もないから退屈だろう?」 「いっいえ!目新しい物が沢山で楽しいです」 奥で木炭を焼いていた男の人は、ボクのその答えを聞いて、少し笑ってから、 「記念だからこれをやろう、売り物にするには少し規格外なんだが品質は全く問題無いからな」 と木炭を少しくれた。 「ありがとうございます!」 「いやいや、見た感じトレーナーさんみたいだし、炎タイプのポケモンにやれば喜ぶぞ!」 「あっ、はいっ」 「うん、俺のバクフーンも好き」 ゴールドは良かったな!とボクに笑ってから、 「じゃあ次ガンテツの所行くつもりなんで!」 と踵を返した。 ガンテツ……さっきも言ってたけど誰だろ?……ボールの人かな? 「ああ、確かにあの人とは会った方がいいな。折角ヒワダに来たんだから。……じゃあな、ゴールド。そっちの人は、」 「Nです」 「N?……変わった名前だな、まあまた来てくれよな」 「はいっ」 最後にお辞儀をしてからゴールドを追って外に出た。 「次行くのが、ガンテツってオヤジのとこ。ボール作ってる奴な」 「ああ、さっき言ってた」 「ああ。たまに俺も作ってもらう」 ゴールドは少し歩いた所、一段高い所に建っている建物の扉を開けた。 「ちわー、ゴールドだけどー」 「おお!今電話しようとしたとこや!ほらこれ!」 ゴールドになんだか見たことないボールが手渡された。 「なかなか取りに来んから待ちわびとったぞ」 「ああ、スピードボール!忘れてたぜ」 ゴールドはそれを鞄にしまってから、ボクを指して、 「こいつ、俺のダチ。遠くから来てて観光中なんだ」 と紹介した。 「あっ、はい。Nっていいます」 「おおそうか!わしはガンテツ。ボール職人や」 「はい」 ガンテツさんは棚からボールを一つと木の実を一つ出して、 「こんな木の実からこういうボールを作っとる」 と見せてくれた。 「見たことないです」 「だろうて。ほとんどもう作られとらんからな」 「作れる奴が居ないからな」 「すごいですね」 「ああ、まあな」 ガンテツさんははははと笑って、 「じゃあ、珍しいだろうしそれはやる。土産にでもしたらええ」 「ありがとうございます」 「じゃあわしは作業が有るから見たければ見ていけ」 「はいっ」 「ただいまー、って、まだか。一番乗りだしな」 ゴールドは部屋の扉を開け、あはは、と笑ってボクにもう一つの鍵を渡してくれた。 あの後少しガンテツさんの作業風景を見てから、ボクらはポケモンセンターにやってきた。 ゴールドが部屋を予約しておいたらしく、すぐに鍵を貰うことができた。 鍵を受け取り、隣の部屋に入る。 荷物を置き、ぼんやりとしていると、窓が叩かれるような音がした。 「?……あっ」 窓の外、ブラックが居る。 「ブラック!」 窓を開けると、ブラックはシンボラーの背から飛び移り、部屋に入ってきてボクに抱き着きながらシンボラーをボールにしまい、窓を閉めた。 「……ただいま!」 「おかえり!」 カチャ、と窓の鍵を閉め、ブラックはボクに思い切り抱き着いてくる。 「ぶ、ブラック?」 「N不足」 「あ、……うん」 ブラックの髪の毛が頬をくすぐる。 少しくすぐったくて、ふふ、と笑ったら、ブラックは顔を上げた。 「何?」 「いや、髪の毛くすぐったくて」 「ああ、そっか」 ブラックは少し笑ってから、 「ま、あれだ、仕方ないよな。それともNは僕には坊主とかスポーツ刈り似合うと思う?」 と悪戯っぽく聞いてくる。 「や、やだ……ブラックはこのままがいいっ」 「だよな。似合わねえよなあ。まずそんなにがっちり体育会系じゃないし」 それから、ボクの髪の毛を背中に回した手で撫でながら、 「Nも切るなよ?僕が切るんだから」 と言った。 「うん。切らない」 ブラックはよくボクの髪の毛を指先で掻き回したりして遊んでいる。 そんなときもなんだかボクはシアワセで、だから切ろうなんて思うはずも無かったんだけど。 「Nの髪の毛ふわふわだな。柔らかいし。僕の硬いからなあ」 ぐしゃりと髪の毛をブラックは掻き回しながら、しばらくしてまた目を合わせてくる。 「N、キスしよ?」 「えっ」 「したい。……させて?」 「……いいよ」 ブラックの唇が重ねられる。 何度も重ねて、舌も絡めて。 だんだん息が苦しくなってきた頃… 「Nー、居るー?……あ」 「ん?……あっ」 「……おかえり、ブラック」 「あ……ただいま、ゴールド」 ドアの鍵、開けっ放しだった……! ゴールドはなんだか苦笑いなんだかよく分からない笑顔を浮かべて、 「足音しないからまだかと思った、悪いな」 と言った。 「あ、いや……窓から帰ってきた僕も僕だし」 「ああ、窓から。……あ、ごめん、邪魔したな!あと、これ二人にやるよ、置いとく。じゃな!」 ゴールドは最後はめちゃくちゃいい笑顔で近くのテーブルの上に何かの箱を置いて部屋から出ていった。 「……」 「……」 「……ごめん、鍵」 「……いっ、いや、いいよ」 お互いに顔は真っ赤。 しかも喋ってる間もブラックはボクを離してくれなかった。 というか、動けなかった。 「あー……なんというか、まあ、うん」 ブラックはボクに微妙な笑顔を浮かべ、 「恋人って知られてはいたし……そこまでのダメージじゃないんじゃないかな」 と言った。 「そ、うかな」 「……多分。ほら、トモダチだし」 「あっ、そ、そうだね」 「そういえば、何くれたんだろ?」 「あ、うん」 一旦離れ、テーブルから箱を取る。 「……あ、これあれだ。ぼんぐり」 「……の、ジュース?」 「みたい」 「へえ、ポケモンがこれ好きなんだって。いいな」 「そうなんだ」 ブラックは中に入ったカラフルな缶のうちの一つをしばらく見てから、 「あ、そうだ。これゾロとロアにやろう。な?土産にでも」 「そうだね!きっと喜ぶよ」 「じゃあパソコンで明日にでも送ろう」 「うん。……あ、そういえばブラック、何してたの?」 「ん?……ああ、ちょっとウバメの森の環境調査。同じ森でもイッシュとジョウト、差が有るだろ?その調査」 「そうなんだ」 「Nは?」 「あ、ブラックが居なくなった後はゴールドがヒワダ案内してくれたよ。木炭作ってる家と、ぼんぐりでボール作ってる家行ってきて、これ、貰ったんだ」 そして、鞄から貰った木炭とボールを出す。 「わ、すげ!これってスピードボール?へえ、初めて見たな。で、こっち木炭か。本当にここで作られてんだなー」 ブラックはそれらを珍しそうに見て、すごいな!と言って返してくれた。 「あ、うん。あ、これ、炎タイプスキらしいから、エンブオーにあげなよ。レシラムにもさ」 「いいのか?」 「うん!ゴールドのバクフーンもスキなんだって」 「へえ、ありがとう」 ブラックは木炭を二本受け取り、ボールを一つ開けた。 「エンブオー、Nからプレゼントだってさ」 『ありがとう、N』 エンブオーは木炭をブラックから受け取り、嬉しそうにボクにそう言ってくれた。 「喜んでもらえて嬉しいよ」 そう言い頭を撫でたら、エンブオーはくすぐったそうに声を少し漏らした。 「良かったな、エンブオー」 ブラックも肩のあたりを軽くぽんぽんと叩いて、それからエンブオーをしまった。 「さて、今日は楽しかった?」 「ブラックが居なくて少し淋しかったけど楽しかったよ」 「そっか。……トモダチって、いいだろ?」 「えっ」 「いや、本当はNも連れていっても良かったけどさ、ゴールドならNと一緒に居てくれるかなって。なんかほら、Nもたまには僕以外とも過ごしてみてもらいたいなって。人と少しでも分かりあうためにも」 「そっか。うん。楽しかったよ。……でも、やっぱりブラックと一緒がいい」 「そう?……ありがと」 「うん」 ブラックに抱き着いたら、ブラックは嬉しいけどな、と笑った。 分かってる。でも、やっぱりトモダチよりブラックは特別。 そう、小さく言うと、ブラックはそうだな、と笑ってくれた。 トモダチはいいものだろ? それでもやっぱりキミが1番だな。 back |