「イッシュって遠い?やっぱ」 「遠いよな」 「うん」 「そっかー、いつか行きたいなあ、知らないポケモン沢山居るんだろうなあ」 ゴールドはラーメンをすすりながら言った。 「まあ沢山。逆にこっちはここのポケモンが珍しくて」 「あー、そうなるのか……へえ、じゃああいつも初めて見たのか?」 ゴールドは後ろでうとうとと舟を漕いでいるバクフーンを指差した。 「うん」 僕は箸でうどんを掴みながら答えた。 「ボクもバクフーンは初めて」 Nはフォークでスパゲティを巻き取りながら言った。 シルバーはゴールドとは違うラーメンを食べながら、 「まあバクフーンは珍しいからな」 とバクフーンを振り返り、 「トレーナーに似て呑気な奴だな」 と呟いた。 「……バクフーン、一旦戻すか」 ゴールドはポケットからボールを出して、バクフーンをしまった。 「で、それで」 ゴールドはリュックを開けて、 「これ、やるよ」 と、何かを差し出してくる。 「何、これ」 「ん?ああこれな。コガネの地図」 ぺろ、とそれを広げて、 「今ここ」 と指でその地図の一角を指し示し、それから今度は街の中心近くを指を滑らせながら、 「ここがラジオ塔。ラジオ流してる。当たり前か」 「で、ここがリニア乗り場。カントー行けるけど、まあまだジョウト見て回るんだよな」 「ここが百貨店。品揃えはなかなか。まあ人は多いけど」 「ここからここが地下通路。ガラ悪いトレーナー多いからあんまりお勧めはしない。でも、ポケモンの美容院とかはある。あと、写真屋があってロケット団のコスプレ写真が撮れる」 「それと、ポケモンジム。まあそんなに強くない」 ゴールドはまあ俺だし仕方ないな!なんて悪戯っぽく笑って、 「最後にポケモンセンター。夜になったらここで落ちあおうぜ」 と指を止めた。 「いいか?」 「……別行動?」 「うん。まあ二人で見たい所も有るだろうしな。分からないことあったら、……ポケギアの番号教えるから。こっちもなんかあったら言うから番号教えて」 「あ、分かった」 ポケギアを出して、番号を登録、それから自分の番号を教えた。 「ん、じゃあ食べ終わったら解散な。……あ、シルバーは俺と一緒。さりげなく逃げんな」 「……」 「しばらく付き合えよな」 「……仕方ないな」 シルバーはいつの間に食べ終わったのか箸を置き鞄からポケギアを出し、 「こいつなかなか電話気付かないし俺の教えとく」 と、番号を交換してくれた。 「シルバー、俺そんなに気付いてねえか?」 「……先週」 「……あれは悪かった」 ゴールドは小さく呟いて、それから残りを食べ終わって箸を置き、 「払っとくから、ゆっくりな」 と立ち上がった。 「ごちそうさまです」 「あ、ありがとう」 「いいってこと!……シルバー、行こうぜ」 「ああ」 二人が居なくなってから、僕もすぐに食べ終わって、隣のNを見た。 Nは少しずつスパゲティを食べていたけど、視線に気付いたのかこちらを見た。 「あ、……ごめん、遅くて」 「ん?あ、いやいや、大丈夫。ゆっくりでいいよ」 「うん」 Nがまたスパゲティを食べはじめたのを見てから、僕は貰ったばかりの地図を広げた。 「ラジオ塔とか珍しいな。……なあ、N」 「うん。珍しいよね」 「すごいなあ、高い建物。色があるブラックシティみたい」 「……そうだなあ」 ブラックシティに色を付けてもここまで明るくはならないだろうと思いながら、曖昧に頷いた。 とりあえず周りを見渡すと、鉄塔の端みたいな物が視界を横切った。 「あれ、ラジオ塔かな」 「ぽいね」 下まで歩いていって見上げてみる。 「思ったより高いなあ」 「うん、高いな」 「すごいなあ、ここから流すんだよな」 「うん」 「あ、中入ってみないか?」 「うん、そうしようか」 中に入ると、見学者も何人か居て、なかなか賑わっていた。 2階では実際に収録もしていて、それをしばらく見てから、ラジオ塔を出て、それから百貨店に行った。 「はい」 「あ、ありがとう!」 Nは嬉しそうに僕が渡した物を両手で包み込むように持った。 「可愛いね」 「うん」 キーホルダー。ピカチュウのぬいぐるみだ。 「あ、本当にこれ……くれるの?」 「うん。お揃い、みたいな?ほら。同じだろ」 僕はクレーンゲームで一度に二個取れたもう一つを出した。 「ううん、それは男の子だね。こっちは女の子だよ、ほら、しっぽ見て」 「本当だ。ハートだ」 「だから、女の子だね」 Nはその女の子であるらしい僕があげたキーホルダーを嬉しそうに指先で撫でたりしていて。 「じゃあ、ここに付けるね」 と、最終的には鞄にそのキーホルダーを付けた。 だから僕も鞄にキーホルダーを付け、それから時計を見た。 そろそろ夕方だ。 「そろそろぐるっと見たらポケモンセンター行こうか」 「あ、うんっ」 Nと並んで、二人でまた買い物客の波に流されていった。 「お帰り」 「迷わなかったみたいだな」 ポケモンセンターではもうゴールドとシルバーが二人でソファに掛けて待っていた。「うん。楽しかった」 「よかった。……部屋取っといた。2階」 「うん」 「右隣に居るから、何かあったらポケギアかけてくれたらすぐ行くから」 「ありがとう」 「じゃ、明日も歩くから、あんまり夜更かしすんなよ」 「分かった」 「じゃ、おやすみ」 ゴールドは鍵を渡すと、シルバーの手を引っ張って先に上がっていった。 「行こうか」 「うん」 僕もNの手を引いてゴールドが歩いていった方へ歩きだした。 部屋に入って、ドアを閉め鍵をかけてすぐにNが抱き着いてきた。 「N?」 「暖かい」 「うん……でも、先にシャワー浴びないと面倒になるよ」 「……そうだね。ブラック先がいい?」 「先、どうぞ」 「ありがとう」 着替えを持ってシャワーを浴びに行ったのを見送ってから、僕も着替えを出した。 「ブラック、」 「N」 今度はシャワーから出てすぐ僕からNを抱きしめて、ぎゅっと身体を密着させた。 「スキ」 「うん……」 「流石に家に居たときみたいにこうしたりは沢山出来ないけど、ちゃんと大好きだから。知り合い増えても1番はNだよ」 「……うん」 「心配いらないから。……ずっと1番はNだから」 「……うん」 Nの僕の背中に回された手に微かに力が込められた。 「N」 「何?」 「キスしていい?」 「……うん。……して」 一旦少し身体を離して、一瞬視線を絡めてから、Nの唇を塞ぐ。 何度か触れるだけのキスをしてから、Nの唇を舌で割って、咥内に舌を差し入れた。 「……ん」 Nの舌に絡めるようにして、舌で舌に触れる。 「んん……ぶら、く……」 「え、ぬ……」 きゅうと抱きしめられながら、Nの唾液を舐め、飲み下す。 またそれから吸い付いてみれば、小さく、くちゅり、と水の音がした。 Nの腕にさらに力が込められたのを感じて、一旦唇を離した。 「ブラック、……スキ」 またぎゅうと抱きしめられて、なんだか幸せでふわふわした気分になってきた。 「N……」 ぎゅっと抱きしめたら、Nは微かに荒い呼吸のままで、僕の頬に頬をくっつけてきた。 「ブラック、今日も一緒に寝てもいい?」 「もちろん。大丈夫」 「……ありがとう」 Nのふわふわした後ろ髪に指を絡ませてみると、やっぱり今日も柔らかくて気持ち良かった。 「……ブラックって、優しいね」 「え?」 「優しいよ。ボクにいつも優しくしてくれるし」 「そうかな」 「うん。……ボクは沢山わがまま言ってるのに、いつも聞いてくれて、いつも感謝してるんだよ」 「そうかな……僕自身わがままだから、Nを悲しませること多いし……あんまり何も、」 そこまで言って、Nに唇を塞がれた。 「ブラックは優しいよ。ボクはそんなブラックが、スキ」 「……ありがとう」 Nは少し笑って、 「ブラック、明日も歩くみたいだから寝ようよ」 と言った。 「うん」 Nを一旦離してベッドに潜り込み、後から来たNをまた抱きしめる。 Nはやっぱり嬉しそうに笑って、僕のことを抱きしめた。 「暖かいね」 「うん。暖かい」 お互いに少し擦り寄ってぴったりくっついて、体温を分け合う。 冬の気温は冷たいけど、Nが居るから気にならない。 Nの暖かさをじわりと感じながら、ゆっくり目を閉じたら、Nの息をさらにはっきり感じた。 くっついた胸から響く鼓動も、吐き出す息も、少しずつ重なっていく。 だんだん世界が二人だけのものになっていく気がした。 「……おやすみ、N」 「うん。……おやすみ、ブラック」 最後に小さく言えば、小さく返してくれた。 だんだん重くなる瞼はもう上げられない。 ゆっくり重なる二人だけの世界で、ただくっついて。 ああ、幸せだなあなんて思いながら。 僕らは眠りに意識を沈めていった。 黒くないビル街 あの街よりこの街の方が全然いいけど。 back |