「おはよう!ブラック」 「ん……おはよ」 ぱちっと目を開けたら、目の前にNの顔があって、とりあえず、 「元気?」 と聞いてみた。 「元気だよ、ありがとう!ブラックが看病しっかりしてくれたからだ」 「どういたしまして」 Nは嬉しそうな顔をして、ベッドに乗り出すようにしていた身体を起こして、 「着替えようよ」 と着替えを渡してくれた。 「ありがとう」 ベッドから下りて、出してもらった着替えに着替えようとして、ふっとNを見た。 Nはいつもの格好にもうなっていて、さらに手に上着を抱えていた。 「上着、どうしたんだ?」 「え?……あ、これ、はい!」 Nは抱えていた上着を持ち上げ、二枚重ねになっていたそれの一枚を僕に示した。 「これさ、ちょっと前、まだブラックが歩けなかった頃に、買ってきたんだ。もう寒くなるからと思って。お母さんも一緒に選んでくれたんだよ」 はいっ、と渡されたそれは、黒いもの。 「ボクは白なんだって。お母さんがお揃いがいいでしょ、兄弟で恋人なんだからって」 「へえ……」 母さんの言葉が有り難いかそうじゃないかはよくわからないけど、とりあえず暖かそうだから、良いんじゃないかな、とぼんやり思って、それからふ、と思い直す。 「そういえば、これに合う服ないなあ」 「あ、それも大丈夫だよ。……それ、」 「……あ」 確かに、なんか違う。 上着、というかまあ水色のあれが、白いパーカーみたいなものになっていた。 「もう少し寒くなったら、ダウンも有るんだよ、それは今までの服にも大丈夫なんだ」 「へえ、凄いな」 「うん、着替えようよ」 「あ、うん」 Nに促されて、着替える。 最後に上着を羽織って、留める。 「出来たよ」 「お揃い、だね」 はにかむようにNは上着の裾を少し引っ張って笑った。 「うん」 「なんだか、嬉しい」 Nは、僕の手を握った。 「ブラックと、同じ服だ」 「そうだな、確かにいいな、なんか」 Nの手を握り返して、笑う。 それから朝食のパンを食べ、それから部屋を出た。 エンジュへ向かって歩きながら、周りを見回す。 見たこと無いポケモンが沢山居る。 そして途中で牧場を見付け、立ち寄ったりした。 イッシュにも届けているらしい牛乳は、普通に美味しかった。 ミルタンクというポケモンを見て、それからまたエンジュに向かう。 Nは終始楽しそうで、初めて会う人ばかりにも関わらずなかなか楽しんでいるらしい。 確かにイッシュ以外にはあまりプラズマ団は知られていなくて、そこも有るのかもしれなかった。 二人で喋りながら、またしばらく歩く。 「ブラック」 「ん?」 「ポケギア、鳴ってる」 「……あ、本当だ」 ポケギアのボタンを操作して、繋ぐ。 「もしもし、ブラックです」 『あら、やっぱりブラックが出るの』 「母さん?」 『うん。……上着、どう?』 「いいと思うよ」 『Nとお揃いね』 「……まあな」 母さんは電話の向こうで笑って、今どこなのかを聞いてきた。 「アサギからエンジュに行く途中」 『へえ……よく分からないけど、気をつけてね』 「うん」 『Nにもよろしく。……じゃあ、また電話するわ』 「うん、じゃあ」 ポケギアを切りながらNに向き直ると、Nはお母さんだったの?と聞いてきた。 「うん。上着のこととかさ」 「そっか、一緒に選んでくれたしね」 「そうなんだよな……あ、見えてきた。ほら、あのゲートだ」 「本当だ」 Nはゲートの先を見て、 「高い建物も有るんだね、」 と感心したように言った。 町の中は、さらに凄かった。 「すげー!写真でしか見たこと無い!こういう建物!」 ただの民家もなんだかイッシュでは見ない建築で、一軒一軒が珍しい。 「本当だね、すごいなあ」 Nも町の奥の高い塔を眺めて、驚いた顔をしている。 周りを見渡すと、珍しいものが沢山で、なんだかよく分からないけど、何故か統一された感じを受け、結論を言えば本当に美しい町だと思う。 「なんか凄いな……」 「うん、そうだね。なんだかすごく歴史を感じる」 Nは焼け落ちてしまっている塔を見て、 「あの塔も、昔はあっちの塔みたいに高かったんだろうな」 と呟いた。 「あっ」 「ん?」 「あれ、見て」 「あ、本当だ。すごい、本物」 少し大きな建物から、舞妓さんが出てきて、どこかへ歩いていった。 「服、きらきらしてたな」 「うん、変わった服だよね」 「凄いなー……やっぱイッシュとは違うんだな」 「だよね」 二人で町を歩きながら、周りをきょろきょろと見回す。 ただただ凄い。かなり昔に建てられたらしいのに、まったく傾ぐ様子もなく、綺麗に直立した塔を見ると、なんだか感慨深い。 しばらくうろうろして、それから、一旦エンジュから出た。 そして、モンスターボールに閉じ込めっぱなしじゃ可哀相だとNが言うから、僕もそれに同意して、一旦レシラムとゼクロムを放して、他のボールも開けた。 「遊んできていいよ」 「呼んだら戻れよ」 ポケモン達は目の届く範囲で好きな所に散らばった。 すると、 「何あれ!珍しい!!……な、あれお前らのポケモン?」 「あ、は、はいっ」 Nは肩をぴくっと震わせ、それから振り向いて頷いた。 僕もそれにならって振り向いて、その人を見た。 帽子を被っていて、赤に白が入ったパーカー、黄色に黒いライン入りのズボンを穿き、スニーカーとリュック。 そして手にボール。トレーナーらしい。 帽子から覗く跳ねた前髪を軽く掻き上げて、 「いいなあ、どこのポケモン?」 「イッシュ」 僕は無愛想かと思いながら、単語で返事を返した。 「イッシュ?……ああ、あそこか。遠くから来たんだなあ。観光?ポケモン探し?」 「まあ少し用事が有って、ついでに観光を」 「へえ!いいなあ、俺も今度どっか行くかなあ、……あ、でもそういや駄目じゃん……」 「?」 「いやな、なんかまあいろいろと。何と言うか……これでもポケモンリーグ制覇しててさ、俺。たまになんかやらされたりしてんだよなあ」 その人はあー、とため息をついて、 「まあ、いいけど。俺にかかりゃ余裕」 と呟いた。 「リーグ制覇、してるんだ」 「ん?ああ。セキエイで」 「僕も、……こっちの彼も、イッシュリーグ勝ち抜いてるんだ」 「え?……すげえ!いいなあ、イッシュリーグか!……名前聞いていいか!?」 「いいけど……そっちは?」 「ん?……あ、俺、ゴールド!」 「僕は、ブラック。こっちがN」 「よろしくお願いします」 Nも隣で小さく頭を下げ、にっこり笑った。 「よろしくな!」 ゴールドはにっと笑って、 「でさ、何歳なの?」 と聞いてきた。 「なんで?」 「いや、イッシュではリーグ勝ち抜けるの何歳ぐらいなのかなあと」 「僕は15になってるけど、勝ち抜いたときはぎり14だったな。Nもそんぐらい」 「そんぐらい?」 「……分からなくて。誕生日」 「へえ……まあ、なんか理由が有るんだろうな。まあ、聞かないから気にするなよ」 「ありがとう…」 ゴールドはへえ、と笑って、 「じゃあ俺の方が早いな。俺、勝ち抜いたの12だ。今はもう17だけど」 と言った。 17って、年上だった……、正直僕は軽くショックを受けた。しかもリーグ制覇は5年前。かなり先輩だ。 「まあ、敬語とかいらないし、楽にしてなよ、言うなれば学校違いの後輩っ」 ゴールドは僕らを順番に見て、それから、 「でさ」 二人の手を持って道端に引っ張り、少し声のトーンを落としてから、 「お前らさ、違ったら謝るけど……付き合ってんの?」 「は!?」 「えっ」 ゴールドは心なしか楽しんでいるように笑って、 「大丈夫大丈夫、別に軽蔑とか馬鹿にしたりとかしないから」 と言った。 「……まあ、そうだな。Nは、僕の血の繋がらない兄弟で、恋人だ」 「やっぱりなー、だってなーんか仲良いし、おまけに服はお揃い、なんてやっぱりなあ、いいなあ」 ゴールドは僕ら二人の肩をぱんぱんと叩いて、 「俺の恋人も男なんだけどもうあいつがつれないつれない。淋しいんだよー」 なんて笑った。 「なーんて、初対面なのにな!……話付き合ってくれたお礼って言ったらあれだけど、ジョウト初めてなら案内してやろうか?良い場所沢山知ってるぜ」 「いいのか?」 「うん。今暇だから」 「じゃあ……お願いしようかな」 「よっしゃ!任せろ……で、今どこは行ってきたんだ?」 「アサギから、エンジュ」 「へえ、ここ真っ直ぐ行けばチョウジだけど、こっちよりは先にコガネの方がいいな……じゃ、一旦エンジュ戻って、そっからコガネ行くか」 「あ、うん」 Nは、じゃあポケモン戻さなきゃ、と鞄からボールを出した。 僕も鞄を開け、ボールを出した。 「戻ってこいっ」 次々とポケモン達が戻ってくる。 最後のボール、レシラムの物以外が閉まったのを確認して、仕舞う。 「ん?5匹ずつなのか?」 「いや、あと一匹は放し飼い」 「へえ、すげえな……俺も考えてみるかなー」 ゴールドは後ろにあった自転車を収めて、ボールを一つ開けた。 「バクフーン、ほら、新しい……友人、かな?で、いい?」 「いいよ。な?」 「うん」 「じゃ、友人のブラックと、N」 「よろしく」 「よろしくね。……うんっ」 「?」 Nはバクフーン、と言うらしいそのポケモンと会話を始めたらしい。 「え、あ、うん。あー、そっか、ありがとう!」 「……話せるの?」 「……あ、う、……うん。変、だよね」 「変じゃねえよ!すげえじゃん!!えー、いいなあ、カッコイイな!」 「あ、ありがとう……!」 Nはバクフーンの首を掻くように撫でながら、 「ゴールドはワカバタウン出身か、お母さんと二人暮し、ブラックと一緒だね。ポケモンとは仲がいいんだね。あと、友達も沢山かあ、いい人なんだね」 「すげえ、全部合ってる……」 「バクフーンは女の子だからゴールドに対していろいろと心配りもできるいい子だね」 「そうなんだよなあ、こいついいやつなんだよ」 ゴールドはバクフーンの頭を撫でて、そう言った。 「バクフーンもゴールドがスキなんだね、信頼してるのすごい伝わってくる」 「そうか!ありがとな、バクフーン」 バクフーンは嬉しそうに小さく鳴いた。 しばらくゴールドはバクフーンを撫でていたけど、ぱっと立ち上がって、 「じゃ、行くか!」 と歩きだした。 「行こう」 「うん」 僕もNを促して、立ち上がる。 バクフーンはゴールドの後ろをちゃんとついていっていた。 歴史の外で出会い 知らない場所には知らない人間が居るのは当たり前だって分かってる。だけど、発見が無いかって言えばそんなことは無い。 back |