天井をぼんやりと眺める。 真っ白。 少し視線を横に反らして、壁を見た。 真っ白。 真っ白真っ白真っ白。 病院って本当に真っ白だ。 まあ別にそれはそこまで嫌じゃないけど、Nが前言ってたみたいにいつか目が色を捕らえられなくなりそうだ。 「ふ、あー……暇……」 Nはまだ来ない。 当たり前だ。まだ朝だし。 Nは基本朝にあまり強くない。 まあいつもここに来る時間から考えて、前よりは早起きなんだろうけど。 それでも、やっぱり待ち長い。 Nが居ないこの部屋は、やっぱり少し淋しい。 外の足音に耳をすましている間、ぼんやりと目は白ばかりを捕らえていく。 Nが来るまでのこの時間、何をしようか。 「……」 ふと、思い付いて、僕はゆっくり身体を起こした。 もう、怪我もそんなに悪くない、はず。 「立てるか……?」 そろそろと足をベッドから出して、ベッドに腰掛けて、それからベッドの脇の柵を掴む。 「……っ」 軽く腕が痛む。 無理だったのかもしれない。 でも、残念ながらここまで来たら諦められないのが僕だった。 「……よっ」 ベッドから腰を上げ、足に力を込める。 「……ったあっ!!?」 途端、足に久々にかなりの痛みが走り、すぐ体重を支えることができなくなった。 がたん、と大きな音を立てて僕は床に身体を打ち付けた。 「……痛い」 はは、と笑ってみる。 やっぱり痛い。 「……かっこわり」 Nが来るまでになんとかベッドに戻らないと、Nが心配する…… と、僕は起き上がろうと床に手をつき、力を入れた。 「……たた……っ」 痛みがびりびりとした感覚を伴って走る。 とりあえず身体は起こせたけれど、そういえば立ち上がれないのにどうベッドに戻るんだ? ……やばい。これは、やばい。 「N、そろそろ来るんじゃ……」 時計を見たら、いつもNが来る時間までほんの少ししかない。 「……やばい、な」 Nは無理するのを嫌うから、無理して立とうとしました、あはっ、なんて言ったらきっと怒るか泣くか両方だ。多分両方。 僕はベッドの縁を掴んで、ぐっと足と腕に一気に力を入れた。 「痛っ……!」 なんとか、立て……あ、無理。やっぱり無理。 一人で戦っていると、 「ブラックー?」 「……え、N」 僕を見たNが固まった。 「ブラック……?」 「あ、え、……N、こ、これは……、その……」 「ブラックの、馬鹿……っ!なんで、なんで……そんな、まだ治ってないのに……!!」 「ご、……ごめん」 Nは僕に駆け寄ってきて、ベッドに上げてくれた。 「なんか……もう治ってきたから立てるかな、とか……」 「ブラック……無理したら駄目だよ。治るものも治らないよ。ブラック、早く治して帰ってきてくれるって言ってたのに……!」 「ごめん……」 Nは、僕の手を握って、 「ブラック、怪我治るまで退屈なのは分かるけど……じっとしてなきゃ、駄目だよ」 と言った。 ブラックの怪我がもっとひどくなったりしたら堪えられない、と少し涙を零して。 「うん……本当、ごめん」 Nの涙を指先で拭ってやる。 「もうしない」 「絶対だよ」 「うん、……もう、しない」 Nはボクの軽く汗ばんだ前髪を指先で払って、 「……痛かったんだね」 と、小さく呟いた。 「ブラック、痛かったんだ……だって、寒いぐらいなのに、汗かいてる」 「……うん」 「痛いって思ったら、すぐやめなきゃ駄目だよ」 Nは僕の腕を包帯の上からさすってくれる。 「ブラックの身体、動かなくなったらボクも嫌だからね」 「N……ごめん」 Nは僕より痛そうな顔をして、僕の怪我を見ていたけど、はっと思い出したように、 「カーテン、開けるよ」 と、僕の腕から手を離して立ち上がった。 Nがカーテンを開け放つのと同時に、視界に色が溢れた。 「うわ、……眩しい」 「うん、今日はいい天気だよ」 空は綺麗な水色をしていて、道の端に生えた木は緑色から黄色、朱色まで色を変えつつある葉に被われている。 「ブラック。早く良くなって、そしたらまたどこかを見に行こう」 「うん。そうだな」 「でも、無茶したら駄目だよ」 「分かってるよ」 Nに向かって笑って見せたら、 「本当に駄目だからね」 とかなり念を押された。 ……前科が有るからなかなか言い返せないけど。 無理は駄目だと知りながら 無茶ばかりしてごめんなさい。 back |