髪の毛をそっとすくって、指に絡める。
背中に腕をまわして、思いきり抱きしめて、頬をくっつける。
ああ、もうスキだ。
とにかくスキなんだけど、そればっかりも言ってられない状況だって、この世には、ある。
「……N、行ってくるよ。……追いかけて来たら、駄目だからな」
「……う、ん」
ぎゅっともう一度抱きしめて、僕は家を出た。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい……ブラック」
Nに手を振る。
それから、僕は帽子を目深にかぶって、モンスターボールを開けた。
いつものポケモン達は、置いてきた。
服装も、違う。
「ケンホロウ。……行くよ」
僕は今から、ある場所に侵入しようとしていた。
……沈んで無くなっていたと思っていた、Nの城。
それを最近発見して、そこに僕は何かが有るんじゃないかと考えた。
空を飛んで、山奥の洞窟の前で降りる。
その奥、その先に城が沈んでいる。
少し前に、偶然発見したものだ。
昔は少し見たらなんだか懐かしいやら淋しいやらでよく分からないまま出てしまったから、奥までは見ていない。
だから改めて行ってみようと思った。Nのことを、もっと知りたかった。
もしかしたら、まだ誰かが居て、何かを知れるかもしれないなんて、考えてしまった。
でも、僕はNの夢を終わらせた僕だ。
だから、僕が誰か分からないように服装もポケモンも変えて、またここに戻ってきた。
「行くよ」
真っ暗な道をゼブライカに照らさせて、中に侵入した。

しばらく進むと、洞窟らしい道から城の道に変わった。
前はもうこの辺で確か引き返してしまったように思う。
かつん、かつんと足音が響く。
まだ残った戦いの跡が記憶を呼び覚ます。
ジムリーダー達が助けてくれて、すぐ先に進めたんだっけ。
しばらくまた扉を手当たり次第に開けながら歩くと、一つの部屋で完全に足が縫い止められた。
「……Nの、部屋……」
変わらず玩具が散らばった部屋の中で、僕はしばらく立ち尽くした。……と、
「おや、……お客様が」
「誰だ!?」
「……おや?……貴方は」
「……ゲーチス……!!」
「誰かと思えば。陳腐な変装ですね。……ブラック、でしたか?」
「覚えてたんだな」
「ええ。貴方のせいで計画が頓挫したんですからね」
ゲーチスは全く記憶と違わない顔で笑った。
「それで?……貴方はここへ何故やってきたのですか?」
「……別に。……まあ、お前と会いに来たんだとは口が裂けても言わないけどな」
「そうでしょうね」
ゲーチスは笑ったままで僕の隣のゼブライカを見て、
「そうならもっと貴方は別のポケモンを連れて来たでしょう」
とマントの中からモンスターボールを取り出した。
「……どうするつもりだ」
「今の貴方のポケモンが大して強くもない言うなれば二軍のポケモンであることは分かりましたから。……貴方を餌にNをおびき出し、プラズマ団を復活させます」
「……は!?」
「貴方にNが懐いているのはとうに知っていますからね。貴方で釣ればNは必ずここに来る。……違いますか?」
「……くそっ」
不本意だけど、仕方ない。
確かに今の僕の手持ちは今のベストメンバーじゃない。
そこは認めざるを得ない所だ。
でも、
でも…!!
「Nをお前なんかに……!!」
モンスターボールを後ろ手に一つ開く。
「行け!」
号令をかけるとすぐにそこから飛び出したポケモン……ゾロアは走り去って、途中からは幻影に紛れて見えなくなった。
「……Nを逃がすつもりですか」
「だったら?」
「それなら、貴方はNの居場所を知っていることになる。……口を、割らせます」
ゲーチスは僕に勝ち誇った笑みを見せた。


「あら?……N、珍しい、お客様が来てるわ」
「え?」
言われて玄関に出ると、そこには一人の少年が立っていた。
「……。中、おいで」
中に招き入れて、ブラックの部屋……今はボクも一緒だ、の部屋に入れて、ドアを閉めて窓とカーテンも閉める。
「戻っていいよ」
こくん、と頷いて、少年は姿を揺らめかせた。
「やっぱり、ゾロア。……ブラックに何か有ったんだね」
こくん、ともう一度頷いて、ゾロアは口を開いた。
『ブラックが……何が有っても、外出たら駄目だって。ポケモン出したり、そんなのもしちゃ駄目って。Nを危険に晒したくないから、だからお願いって』
「……う、ん。……分かった」
『N、どこにも行かないように見てるように言われた。……だから、いる』
ちょこん、とボクの隣にゾロアは座って、ボクを見上げた。
『座って。……どこにも行っちゃ、駄目』
「……分かった」
ゾロアの頭を撫でる。
……ブラック、大丈夫、かな……
今ブラックが連れているのは野生ポケモンとなら戦える、って程度のポケモンばかり。他はボクに預けていってしまった。
……ブラック、無事だといいけど……



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