「ブラック」
名前を呼ぶ声がする。
……Nの、声が。
「ブラック……」
「N?」
かく、と力が抜けるように、Nは僕に倒れかかってきた。
「ど、どうしたんだ?」
「なんだか……ふらふら、して」
Nの額に自分の額をくっつける。
「熱、はないなあ」
「……うん」
「なんでだろう。……N、ちゃんと食べてる?」
「……」
「……、」
……とりあえず、少し食べさせるべきらしい。
「N、どうして食べなかったの」
「トモダチに分けてて」
「トモダチにもあげてるだろ」
「あんまり食べられなくて」
「昨日僕留守だったけど、何食べた?」
その答えで、僕はなんとなく悟った。
「え?……これとか。いつもより少し沢山食べたんだけど」
「N。……サプリメントはご飯じゃない」
栄養を補強するものであってそれは主食じゃない、はずだ。
まずサプリメントは食べる、じゃない。飲む、だ。
なんだかNと居るとだんだん常識も分からなくなってくる。
「えっ」
Nも本気で驚いた顔なんかするし。
「……N、……とりあえずご飯、食べようか」
「……う、ん」

「ほら、出来た」
とりあえずNは死にそうだったから、手っ取り早く出来るものをと思って、チャーハンを作ってみた。
「食べてみて」
「う、うん」
Nは、スプーンで少しチャーハンをすくって、息を吹きかけてから口に入れた。
「美味しい?」
「うん」
「サプリメントよりは美味しいだろ」
「うん」
Nが、ゆっくり少しの量ずつをすくって口に運ぶのを見ながら、少し最近の生活を思い出してみる。
……あー、なんか確かに……食事中Nの近くにずっとNのトモダチ居たな……
今度からはあげさせないようにしなきゃ、Nは本当にもうがりがりになってしまいそうだ。
元から細っこいんだから、これ以上痩せさせるとなかなか危ない気がする。何と言うか、……なんか、折れそうだ。
「ブラック、」
「ん?どうした?……あ、コショウ効き過ぎだった?辛い?」
「ううん、違うよ。大丈夫」
「じゃ、どうしたんだ」
「えっと……食べるの遅くて、ごめん」
「いやいや、いいよ。食べないよりは遅くても食べてくれる方が嬉しい」
「うん」
Nはまたスプーンを動かし始めた。
僕はぼんやりとまた考える。
Nに何食べさせようか。
正直自分一人で旅出来るように、ぐらいにしか考えていなかったから、そこまで料理のレパートリーが広い訳じゃないのが事実だった。
とりあえず……野菜と、あと肉とか魚もバランス良く食わせないと死にそうだし……
自分は比較的好き嫌いが少ないから大丈夫だけど、Nは大丈夫なんだろうか。
……なんだか久々に頭使ってる気がする。
「ブラック?どうしたの?難しい顔してる」
「え?……あー、うん。まあ……そうだな、難しいな」
「んー……?」
Nは首を傾げながらも、また少しを口に運ぶ。
そんな姿を見ながらまた僕は考え始めた。


それは主食じゃない
少し親を尊敬し直したりして。


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