Nの髪の毛は長くてふわふわだ。
本当に綺麗な緑色。
でも……
「伸びたな……」
「ん?」
「髪の毛。ほら、ここなんか邪魔でしょ」
ぴょっこりとはねた髪の束から一つをつまむ。
きっとNの視界の端をいつも掠めているであろう場所のもの。
「あー……うん。そうだね、そろそろ切ろうかな……」
すると、Nはおもむろにペン立てからはさみを取った。
「N、それで切るのか?」
「え?……髪の毛ははさみで切るんでしょ」
合ってる、合ってるけど……違うだろ!
「違うそのはさみじゃなくて!」
「そうなの?……今までこれで切ってたんだけどなあ」
しゃきんしゃきんと何度かはさみで空を切るように動かしながら、Nは呟くように言った。
「……僕が、切ろうか?」
「えっ」
「僕、ポケモンカットしたり出来るし……人間も、切ったこと無くはないし」
「そうなの?すごいな!」
モンスターボールのうちの一つを開ける。
「こいつのこの辺とか、僕が切ったんだ」
ゾロアークの髦を指で指すと、
「え、あ、本当だ。上手いね」
とNはゾロアークの髦を撫でながら言ってくれた。
なんとなく、嬉しい。
「だからさ、Nの髪の毛、僕が切ってあげようか?」
Nの髪の毛にそっと指を通しながら聞くと、じゃあお願いしようかな、とNは頷いてくれた。

「うーん、全体的に、少し梳いちゃうかな。元からボリュームあるしなかなかNって髪伸びるの早いから、すぐ気にならなくなりそうだし。長さはあんまり変えたくないんだよなー」
両手にはさみと櫛を持って、座ったNの後ろに立つ。
「だから、あんまり見た目変えない感じで、邪魔なとこ減らす……みたいな感じでいいかな?」
「う、うん」
Nはよく分かってないみたいだけど、とりあえず前髪からはさみを入れる。
きゅっ、と目に髪が入るのを防ぐためか閉じた目やまぶた、睫毛に思わず目が行ってしまう。
あ、……うん、集中しなきゃ失敗しちゃうからな……集中、集中!
しゃきんしゃきん、前に置いた鏡も見ながら少しずつ切っていく。
あんまり短くしてもなんだかなあ、と思って邪魔じゃなさそうな所はあえてあまり長さは変えないように切る。
横や後ろも同じように切っていく。
Nはもう別に前髪を切っているわけじゃないのに目を閉じたまま。
なんとなくまた睫毛とかに視線が行ってしまう。
……じゃなくて!集中するんだよ僕は!

結局なかなか時間はかかったけど、Nの頭は少しすっきりした気がする。
「うん、……上出来だ」
顔に着いた細かい毛を払ったりして、服を汚さないようにかけていた布も取って、床に広げていた新聞紙を丸めてごみ箱に。
そこでNを見ると、
「……寝てる……」
今までどうして目を閉じたままなのかとは思ったけど、まさか寝ているとは。
長い髪の毛と同じ綺麗な緑の睫毛。日にあまり当たっていないような真っ白な肌。男のくせに細い体型。
……あー!違うんだよ!寝てるんだよ幸せそうに!
いや、寝てるの襲ったこと無くはないけど……!
「N、N……起きて」
「……あ、……ブラック」
「N、出来たよ。ほら」
手に持っていた鏡を差し出す。
「あ……本当だ。なんか軽いや。……ありがとう」
「うん、喜んでくれてよかった」
Nはしばらく鏡で興味深そうに髪を見ていたけど、鏡を置いて、僕の方を見た。
「?」
「ブラック、……あのさ」
「何?」
「ありがとう」
「え?うん」
Nは少し短くなった髪を揺らして、笑った。
「髪切ってもらったの、久しぶりだよ。なんだか、嬉しかった」
「いいえ、僕も楽しかったよ」
「ありがとう」
Nはすっと立ち上がって、
「似合う?」
なんて言った。
「似合うよ、Nらしい」
僕もつられて笑顔で言った。


長さは変えないで
今日から専属のヘアスタイリストでもいいなあ、なんてさ。


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