あー、仕方ないよ、だってもう我慢ができないんだからさ。
Nの寝顔に触れる。
柔らかいNの頬に指を少し沈ませる。
ふにっとした感触が指に伝わった。
Nは頬をしばらくつついたり軽くつまんでみても、全く目を覚ます気配がない。
Nの枕元のNのトモダチ達も、特に何も言わないから、許してくれているらしい。
Nが眠っている布団に潜り込んで、また指先でつついてみる。
「……ん……」
軽く身じろぎだけをして、Nはまた寝息を立て始めた。
どんだけ警戒心薄いんだ、この可愛い奴。
そろそろ起こしてみようか、でもなんだかもったいない。
どうするかな、これ。
「……Nさーん、」
「……」
ぐっすり寝ている。
起きる時にはすっと起きるくせに、起きない時にはとことん起きないのがNだった。
「起きない、なあ」
ありがちな話だけど、キスで起こしたりなんかしてみようか。なんて思いながら、Nの前髪を指先でくるくると遊んでみる。
「……ふ……」
また微かにNは身じろいだ。
「N?」
「ん……んぅ……」
まぶたが微かに震えた。
……あ、起きた?
「ぶらっく……?」
まだ起きたばかりだからかか弱い声で、Nは僕を呼んだ。
「うん。……おはよう」
Nはしばらくぼんやりとしていたけど、急に目が覚めたらしく、
「えっ!?ブラック、……なんで、ボクと、……一緒に寝てるの!?」
「あ、」
正直忘れてた。
Nのスウェットを少し引っ張って、
「大丈夫、何もしてないから。……まだ」
と言っておいた。
「ま、まだ……?何かしようとしたの?」
「うーん……Nの寝顔って可愛いなあって思ってたな。キスして起こそうかなとか」
「……ブラック、そんなにボクのこと見てたの?」
「暖かいだろ」
「へ?」
「布団。入ってきたばっかならもう少し冷たい」
「……もう」
Nは少し顔を赤くした。
「そんなことするなら言ってよ……」
「言ったらできない」
「……して、いいよ」
「え」
「キス……とか」
「……え」
最初の目的とはなんだか違う気がするけど、そこでそんなことを引っ張り出す僕じゃなかった。
僕は、じゃあ遠慮なく、と布団の中でNを抱きしめて、まず頬に唇を付けた。
ぴく、とNが小さく震える。
僕はNの柔らかい頬が大好きだった。
だからいつもいつもまず頬に唇を寄せるのが癖になってしまったらしい。
Nの真っ赤な頬に何度かキスして、それから、今度は前髪を掻き上げて額にキスをした。
「ブラック……っ」
Nがぎゅっと抱き着いてくる。
「N、……嫌だったら、すぐ言って」
「嫌じゃない……」
「よかった」
次は一旦体を起こしてNの上に被さるようにして、耳の横らへんに軽く口付けた。
「んっ……」
すると、Nはくすぐったそうに少し身を縮こまらせた。
「可愛い」
耳たぶを軽くくわえてぺろりと舐めると、Nはぴくりと震えた。
「やだ……そんなとこ、……美味しくないよ」
「んー……?美味しくなくないよ」
Nはそれでもやだよ、と顔を耳まで真っ赤に染めて言うから、僕はやっぱりやめてあげることにした。……今は。
まあ、嫌なら言ってなんて自分が言ったんだし。
「他の所はいい?」
「……うん、でも……変なとこは、嫌」
「分かってるよ」
鼻の頭に軽くキスして、目尻に口付け。
そして最後に、Nの唇に。
「……ん」
やっぱり1番ここが好きだ、なんて言ったら怒るかな。
ちゅっ、と軽く音を立ててみたら、Nはきゅっと目を閉じた。恥ずかしいらしい。
そんなのも可愛くて、僕はたまにわざと音を立て、何度かキスをした。
「……んん……ぅ……」
前回はやり過ぎたしなあ、とぼんやりと考えて、そろそろやめようか、と思って唇を離して、口を開いた瞬間だった。
「え、ぬ……!?」
急に重力が強く……、なんてそんな訳がない。
……Nに引っ張られたんだと気付いた時には、僕は完全にNにのしかかってしまっていた。
「ごっ、ごめん!重いだろ」
「……ううん。……いい」
Nは、そのまま僕をぎゅっと抱きしめて、口を開いた。
「……ブラック、ねえ、あのね」
「ん?」
「ブラック、……今更こんなこと、聞くんだけどさ」
「うん、何?」
Nは、一瞬悩むような間を置いて、
「……あの、あのさ。……ブラックって、……男?だよね」
と真剣な顔をして言った。
「え?……うん。男」
「ボクも……男なんだよ?」
「うん、そうだな」
Nはそこで、困ったように少し黙って、それから、
「でも……ブラックはそれでも、ボクにキスしたりするぐらいボクがスキなの?」
と聞いてきた。
「……あ、……あー、うん……」
僕は予想外の質問に言葉を詰まらせてしまった。
でも、ゆっくりしっかりと答える事が出来た。
「あのな、N。……正直僕はNが男か女かとか、僕自身が男とか女とか、考えた事無いんだ。……ただ、NがNだったからスキになった。……それじゃ、駄目か?」
「駄目じゃないよ、……じゃあ、ボクも男とか女じゃなくブラックがスキ、ってことでいいのかな」
「いいんだよ、僕らがお互い良いって言うなら、いいんだよ」
「うん……ボク、ブラックがスキだ」
「僕も、Nがスキ。……ね?大丈夫だろ」
「うんっ」
Nが笑ってくれたのを確認してから、改めて僕も疑問をぶつけてみた。
「……やっぱ重くない?」


ある日の朝
そう、ただ君が好き。


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