寒い、なんて言いながら、急にブラックがしな垂れかかってきた。
「うわ、……あれ?ブラック……」
「Nー……、N、いい匂いする……」
「うわ、お酒くさい!ブラック、飲んだでしょ」
「飲んでないよー、飲んでないってー」
明らかにおかしい!ブラックの頬は赤く染まっていて、なんだか呂律も危うい。
「だったらどうしてこうなんだよっ」
ブラックに抱き着かれたまま、モンスターボールを一つ取り上げて、尋ねる。
「ブラックは何したの!?」
『……あー……その、止めたんだけどな。…そこの、チョコ食ったんだ』
エンブオーの視線をなぞるように、テーブルに視線を移すと、そこには空になった箱が5・6個放置されていた。
「ウイスキー……」
その箱の中の一つの単語が読めた。
ボクは食べたことが無いけれど、あれがお酒が入ったチョコってやつなんだろう。
それを……5・6箱もブラックは食べたらしい。
「……ブラック!駄目だよ、お酒も、駄目!お酒も体に悪いんだよ!!」
「N……だって、美味しかったんだよー」
「ブラックの馬鹿っ!離してっ!お酒くさいよ……っ!」
ブラックを振り払って、ボクはエンブオーのボールを持ったままなのも忘れて、夜の街に飛び出した。
しばらく走って、適当な所で立ち止まる。
走ってる途中からぼろぼろ涙が止まらなくなってしまっていて、それを乱暴に袖で拭った。
近くのベンチに座って、やっとそこでエンブオーの存在を思い出した。
「……ごめんね。嫌な思いさせたよね。ボクも、自分が分からないよ。……ブラックに、ひどいこと、言っちゃった……!!」
もう決壊したように次から次に涙が溢れて、本当にボクは泣いてしまった。
人通りの少ない道だけど、パジャマがわりのグレーのスウェット姿でぐずぐず泣いてるボクを、不思議そうに見る視線を沢山感じた。
「ブラック、きっと、困ってるよね……キミを連れて来ちゃったし、急に出てきちゃった……」
『N、あれは、怒るのも当然だった。あいつもたまには強く言われなきゃ駄目なんだ。ブラックと会ったあの黒い街。覚えてるか?』
「……?……う、ん……」
エンブオーをボールから出して、隣に座らせた。
と言っても、ベンチじゃ座れなくて申し訳ないけど地べただったけど。
『あそこは、本当に治安が悪かった。そんな所にブラックは長く居たから、ブラックはいろいろ変な癖がついてしまったんだ』
「うん……」
『会った時の煙草も、あの街では沢山の人が吸っていて、そこでブラックは手を出した』
エンブオーはボクを見て、
『お前とまた会ったのが後少し後なら、ブラックは今も煙草を吸っていたかも知れない。あれは最初の一本だった』
と言った。
『ありがとう、ブラックは煙草を吸わずに済んだ』
「……うん、でも……」
『そうなんだ、酒はもう飲んでたんだ』
「そう、なんだ……」
『やめろと言ったのに、一本だけとか適当な事言って、かなり飲んだ。……ジュースみたいで美味しいんだもん、なんて言って。……運悪く、あいつは酒に強かった。ただ、悪酔いするんだ』
エンブオーは、はあ、とため息をついた。
『だから、今回の事は、いい教訓になったと思う。だから、そんなに泣くことは無い』
「でも…ブラック、最後悲しそうな顔してた。ボク、……本気で、振り払って来ちゃった……すごく、痛かったと思う。だって、少し殴っちゃった……」
『N……』
「エンブオー、……どうしよう。ボク、もうブラックに合わせる顔が無いよ……。ブラックに本当にお世話になってるのに、こんなことしちゃった……」
エンブオーは、そっとボクの背中を叩いてくれる。
涙が止まらない。エンブオーも心配してるから、止めたいのに、止まらない。
だって、ブラックに、……嫌われたかもしれない。
ブラックの所に、自分のトモダチ達は置いて来てしまった。
だから、遠くには行けない。
「……エンブオー。本当にごめんね、連れて来ちゃって」
『いいんだ。……ブラックはこのぐらいでお前を嫌ったりは、しない。大丈夫だ』
「う、ん……でも、でも……」
「N……!見つけた!」
「ブラッ、ク……」
「ごめん!N、……もう、やめるから。酒とかなんかやめるから、だから……」
ブラックは息を切らせながら、ゆっくり頭を下げた。
「本当に……ごめん。……戻ってきて、くれないか?」
「ブラック……」
「そんなに泣かせて、ごめん。僕が全部悪いんだ。Nは泣くことない!」
「ブラック、でも……」
ブラックの口の端が、切れてる。
「……痛かった、よね……殴っちゃった……っ!」
「N……」
「こっちこそ、本当にごめん……ブラック。……ボク、ブラックに酷いこと言っちゃった……」
ブラックは、ボクに手を差し出した。
「……そんな格好じゃ、寒いだろ?……一旦でもいいから、家においで」
ボクは、逆らうこともせずにブラックの手を握った。
ブラックは、ベンチから空のボールを拾ってエンブオーを戻して、歩きだした。
家に着くまで、お互い何もしなかったし、言わなかった。
ただ、ボクがぐずぐず泣く声しかしなかった。
家に帰ったら、ブラックはボクの肩に上着をかけてくれた。
「……ありがとう……」
「N。本当にごめん。本当に反省した。……こんな僕なんだ。だけど、Nと一緒にいたい」
「……うん」
「N。……また、一緒に居てくれる?」
ボクは、黙ってブラックに抱き着いた。
もう、お酒くさくなくて、いつものブラックの匂いがした。
「……勿論、だよ……!!」
「ありがとう、N……」
「……ぅ、……うわあああああん……!!」
「ごめんね……」
とうとう声を上げて泣き出してしまった僕を、ブラックは優しく撫でてくれた。
「う、ひぐっ……ぐす、……ぅ、うわああ……」
……もう泣き止めなくなってしまった。
ブラックの暖かさが嬉しくて、嬉しくて。
涙が全く止まらないんだ。
ブラックの肩はボクの涙でぐっしょり濡れてしまっている。
「N……本当、そんなに泣かせて、ごめん……」
「……そん、な……の、いい、よ……っ!」
「N……ありがとう……」
ぎゅう、と抱きしめられて、ブラックに寄り掛かるような体制になる。
「……ブラ、ック……重く、ない……?」
「うん。……大丈夫。Nのこと……スキ、だから…」
「……う、嬉し……っ、うわあああん……っ」

ブラックはボクが泣き止むまで、ずっとそのままで居てくれた。
そしてボクが泣き止むのを待って、ブラックは口を開いた。
「N。本当にごめんな。……嬉しかったんだ。Nに、本気で怒って貰えたこと。Nも、ちゃんと怒るんだって」
「……うん」
「あのな、N」
「何?」
ブラックは、ボクのことを抱きしめる腕に力を込めながら、
「……スキだよ。……ありがとう」
なんて言うから。
ボクも、
「ブラック、……ボクも、スキだよ」
って笑った。


ごめん、ありがとう
君を選んで良かった。


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