おはよう、と曖昧に笑うN。
そんな表情昔はしなかったな、とかぼんやり考えていると、ずいっ、とNの顔が近付けられた。
おはよう。今度ははっきりと言うNに、僕はどこか納得して、そこでやっとおはようと笑って見せた。
「ブラック、昨日の夜も遅かったね。またボク先に寝てたよ」
「……うん、まあ色々。これでもなかなか稼げるいい男だからさ」
なんて。
稼ぎ方を知ったらきっとNは失望するだろうけど。もう嫌われるかも知れない。
でも、Nの喜ぶ顔が見たくて仕方なかったのが事実で、その時も僕は手に入れたばかりの稼ぎの中のいくらかをNに渡した。
「うわ、またこんなに。……ブラック、いつもありがとう」
「いいえ、喜んでもらえたならなにより」
お礼がわりにNに一度抱き着いて、すきだよ、なんて冗談めかして言った。
すると、急にNは驚いたようにぴくっと体を震わせて、ゆっくりと僕の顔を見た。
「……本当?」
正直、そんな反応をされるなんて思わなかったから、なんだかこっちまで恥ずかしくなってしまう。
すき、なんて言葉今まで何回だって何人にも言ってきたのに、Nだけは駄目だ、本気にしてしまうから。
……そこまで考えて、はっとした。……本気にするのは、誰だ?
「N、」
「えっ、」
「僕は……Nが、」
好き?本気にした?僕が、本気にした?
今まで好きなんて気持ちまで売ってきたのに、僕はまだ人を好きになってしまうのか。
「Nが……好きみたいだ」
何人にも無責任にすきだなんて囁いてきたくせに、同じ言葉で本気の相手も縛るのは何だか後ろめたく、でもそれしか言葉は見当たらなかった。
Nだって、きっと困る。
本気にされて、困ってる。
……でも、Nの表情を改めて見上げると、途端Nは心底嬉しそうに、僕に頬と頬をくっつけ、擦り寄せるように甘えるように抱き着いてきた。
「うわっ、」
「嬉しい……ボク、初めてだ。人にスキだなんて言ってもらったのは」
正直なかなか体重がかかってきて辛い体制ではあったけれど、なんだか悪い気はしなくて僕はされるがままになっておいた。
Nは、まるで犬か何かのように頭を擦り寄せてくるものだから、僕も髪の毛を掻き混ぜるように頭を撫でてやった。
嬉しそうに笑う姿は、正直年上には見えなくて、こんな所に偏った知識や感情を見た気がした。
Nをプラズマ団の王にするための偏った教育。その全貌を僕は知らないけれど、きっと精神の発達なんて二の次だったであろうことはすぐに予想がつく。
あの城に有ったNの部屋は、ある種の不安定さを示すようで、僕は思わずしばらく立ち尽くした程だった。
「ブラック?」
Nの声で我に返った。
「あ、ごめん。ちょっと考え事をしてた」
「大丈夫?やっぱり疲れてた?起こさない方がよかったかな」
「いや、大丈夫」
今度は、自分がNにもたれかかるように抱き着いて、
「Nは、少し冷たい」
と呟いた。
「そうかな……ブラックが暖かいんじゃないかな」
「……うん、そうかも」
「……と、いうか、」
Nの顔が近付けられる。
「えっ」
こつん、と額がくっついた。
「……熱い」
Nは、僕の顔を覗き込んできて、
「ブラック、本当に辛くない?すごい熱い。熱、ありそうだよ」
と言った。
「大丈夫だって、」
「駄目だよ、寝てなきゃ」
そして、結局半強制的に僕はまたベッドに戻されてしまった。
「今日はしっかり寝て、早く治した方がいいと思う」
「……うん、」
とは言っても、僕は夜になったらまた出ていくんだろう。
毎日毎日夜になったら出ていく僕を、Nはどう思っているかは分からないけど、結局は僕はただNを喜ばせたかっただけ。
だから、今は眠ってしまおうか。
Nの言葉に少し甘えることにして、僕は目を閉じた。


スキだよ
大好きな貴方の為に僕は汚れていくのです。


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