ああ、綺麗だ。確かに綺麗。
僕なんかと全然違うんだから。
彼と再会したのはある夜だった。
鼻歌混じりにブラックシティを景気良く歩いていた時、彼は現れた。
僕は、その時覚えたての煙草という奴をくわえていて、彼はそれを見てまず悲しげな顔をした。
「ブラック……」
「え、……N……!?」
左右を見回す。
調度ビルの陰だったから誰も見ていない。
「……どうして、……どこ、行ってたんだよ」
煙草を落とし、足で踏み消し、Nに一歩近付く。
Nは、少しまだ悲しげな顔をしたままで、
「煙草は良くないよ、早死にするよ」
とだけ言った。
「……Nのせいだ」
だから僕はわざとこんな事を言ったように思う。
「Nが居なくなって……夢が分からなくなったんだよ」
Nの瞳は相変わらず感情をはっきり映さないからよく分からないけど、少なからずNは何か思うところが有ったらしい。
軽く唇を噛んで、僕に一歩近付いた。
「じゃあ煙草……ボクが居たら止めてくれる?ボクだって……ブラックが居なきゃ、嫌だ」
「……」
僕が何も言わないので、Nは願いを請うように、
「ブラック、ボクと、……トモダチに、なって」
と言った。
正直話が繋がっているのかよく分からなかったけど、それを否定する理由を僕は持ち合わせていなかった。
……ただ、素直に肯定すらできなかったのがその時の僕だった。
「じゃあ、……お金」
「え?」
「お金。……無いの?」
その時の僕は疲れていた。
最初は軽い気持ちで入り込んだこの街で、僕は人間の汚さに染まってしまった。
お金さえくれるならと何でもした。
そんな単純になってしまった流れをNに押し付けて何になるわけでもないのに。
「……」
Nは黙ったまま財布を出して、
「……これしか、ない」
「……小銭!?」
「お金、まだ……無くて」
僕は、Nにそれを返して、自分のポケットから財布を出して、Nにそこからいくらかを渡した。
「……えっ?」
「あまりにもかわいそうだったから。……トモダチだろ?助けてやるよ」
「……いいのかい?」
「いいんだよ。……正直またNに会えるとは思ってなかった」
Nと居るならこんな街は出よう。
近くのごみ箱に煙草を箱ごと投げ捨て、Nの手を握って、歩きだした。
「どこ行くんだい?」
「ん?ここよりは全然いい所。……Nにはこんなとこ、似合わないし。また、観覧車乗りたくない?」
Nの手はひんやりして気持ちが良かった。
久々に「人」と接した気がした。
ここの奴らなんてNと比べたら人なんかじゃない。
Nの何も知らないある種の無垢さが僕は好きだった。
疑うことを知らないN。
昔プラズマ団だった頃から、真っ直ぐ自分の望みを見据えていた。
だから、いつしか僕もその真っ直ぐさに惹かれ、憧れて、レシラムと出会えたのだと思う。
でも、Nと別れた後から今までで、僕は汚くなってしまった。
今でもレシラムはついてきてくれるけど、モンスターボールという枷から彼を解放した時、彼がまだついてきてくれるかはわからなくなってしまった。
Nは、きっと僕と別れた後も、真っ直ぐにやってたんだろう。
ある意味での汚れを知らないNは、ポケモンと触れ合い仲良く笑う人間だけを知った。
だから、僕が今までどうやって生きてきたかなんて知る由も無い訳だ。
Nは、僕の手をぎゅっと握って、
「観覧車、……好きだな」
なんて笑った。
その笑顔がどうしても直視できなくて、僕はさりげなく空を見上げた。


綺麗なままだな
綺麗すぎて直視できないのです。


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