死神、来訪

2013.06.21.Friday


* * * * * * *



学園祭で賑わう校内、その中で回廊の死神ことデスは、保健室へと辿り着いていた。

先程廊下で鉢合わせした壱鬼を相手にしていた為、彼も大分ダメージを負っている様子である。

しかし自身の身体に構う様子はなく、彼は無言のまま保健室へと足を踏み入れた。



室内は、スパイダーによる被害にあった生徒達で一杯になっていた。

先生は勿論、保健委員まで借り出されて忙しなく動き回り、各々手当てにあたっている。

その内保険委員の生徒の一人が、突如入ってきたデスに気付き声を掛けた。



「!貴方も怪我してるのね、ちょっと待ってて!こっちの治療が終わったらすぐに手当てするから!」

「………」



デスのぼろぼろとなった姿を見て、その生徒はそれだけ言い残すとまたぱたぱたと去って行った。

奇しくも今日は学園祭、様々な姿に扮装する生徒達が溢れる中、デスの姿を見て不信感を抱く者はまずいないだろう。

それをいいことに、デスは保健室内のベッドを一つ一つ確認して行く。

カーテンの隙間から寝ている生徒の顔を確認し、目的の人物を探す。



そうして、一番奥のベッドのカーテンの隙間から中を垣間見た時、彼の足は止まった。





―白い髪に白い服。そしてベッドサイドの小さめの机に置かれた、骸骨の覆面。



素顔も一度だけ見た事があるデスは、其処で眠る彼女こそがリジェクトだと確信した。

カーテンを開け、その中へと侵入する。

そして外から見えない様に再度カーテンを閉じた時、そのレールの音でリジェクトは目を覚ましたらしい。



「ん…誰?」



眠たげに目をこすりながら、リジェクトはその人物を確認する。

ぼやける彼女の視界が捉えたのは、ベッドサイドに立つ死神の姿。

それを認識した途端、彼女の頭は一気に覚醒した。



「…!デ…」



彼女が言葉を紡ぐよりも先に、デスの動きの方が早かった。



ぱし!と掌で口を塞ぐと、デスはそのまま身動きがとれない様に素早く彼女の上に跨った。

その際両手の上に膝を乗せたので、リジェクトに手を出させる事も封じていた。

身体の上に圧し掛かった男一人を退ける程の腕力も体力もない彼女は、ただ驚愕した眼差しで彼と彼が持つ大鎌の刃を見上げていた。



※どっからどう見てもデスが女の子を襲おうとしているただの暴漢です、本当にあr(ry







リジェクトの赤い目をじっと見ていたデスは、静かに口を開く。



「…声を上げて助けを呼んだり能力を使おうとすれば、お前の魂を狩る。…いいな」

「………」



デスの言葉に、リジェクトは小さく頷く。

それを確認した彼は、そっと彼女の口から手を離した。

しかし刃は未だ構えたままで、彼女の上からも退ける様子はなかった。



一方、口を開放されたリジェクトは助けを求めたり能力を発動する言葉を発するでもなく、ただ静かに彼に訊ねる。



「…僕の所に来る前に、他の元メンバーや学園生徒の魂を狩ったのか?」

「…いいや」

「そうか…それなら良かった」



デスの返答を聞き、リジェクトはほっと安堵した様子の表情を浮かべる。

その彼女の表情を見て、デスは自身の心に益々疑問が募るのを感じていた。

しかしそれに気付かない彼女は、更に問いかける。



「何で直ぐに僕を殺ろうとしなかった?普段のお前なら、躊躇なくやっていただろう?」

「……狩る前に、一つお前に訊きたい事があった…」

「…訊きたい事?」



デスの言葉に、リジェクトは訝しげに眉を顰めた。

仲間の魂を狩るのに何の疑問も躊躇もなかった死神なのに、今更になって一体何を訊くつもりなのだろうか。

そんな思いを抱きながらも、彼女はデスの言葉を待った。

デスは再度鎌を持ち直し、ずいと彼女に近づけて問う。



「何故お前は他のメンバーを守ろうとする…?」

「…え?」

「何故そんなに執着をする?魂など皆同じ物なのに、何故…」

「…“魂”しか見ていないお前からしてみれば、他人なんか皆同じかもな。…けど、僕にとっては違う」



微かに反感と憤りすら交えた眼差しで、デスを見つめ返すリジェクト。

そして彼女は更に言葉を紡ぐ。



「回廊を抜けた皆とは、苦楽を共にして生きてきた。皆、それぞれの意志と心を持っている。そんな皆が僕は好きだから、そして“仲間”だから守るんだ」

「……仲間…」

「そう、そしてデス。…認めたくないけど、お前も仲間なんだよ」

「…、?」




リジェクトのその言葉に、デスは微かに動揺した様子で彼女の目を見た。

じわりと心に染み入るのを感じつつ、彼は彼女の話に耳を傾ける。


「メンバーを始末するお前はどうしても好きになれなかったけど、清水の下で殴られ虐げられた身からしてみれば、やっぱりお前も同じ仲間に思えてくるんだ…」

「………」

「…まあ、そっちがどう思ってるかは知らないけど」






リジェクトはそう言うと、ふっと視線を逸らした。

しかしデスの返事はなく、ただ彼女をじっと見下ろしたまま黙りこくっている。

そんな中で、リジェクトは再度彼の方を見つめ返しながら口を開いた。


「…僕からも一つ訊きたいんだけど」

「…?」


その言葉に、デスは少しだけ首を傾いだ。


「デスの守りたいものって何?」

「………」

「自分の命なりなんなり、譲れない意思はあるだろ?」


その質問は、デスにしてみれば考えたこともないものであった。



森の中でふと目覚めれば過去の記憶は一切なく、行き場がなく彷徨う中で偶々清水に拾われて、それからただ彼の命令を聞く駒に徹していた。

自身の意思など考えた事もなかったし、ある訳がないと思っていた。


しかしリジェクトの言葉によって、彼の心には新たな“意思”が芽生え出していた。




―“自分”という存在は、今まで独りで生きて独りで死ぬものだと思っていた。

しかし彼女はこんな自分を、仲間だと言ってくれた。
その言葉が、どんなにこの渇いた心を潤してくれたか彼女は知らないだろう。

不確かでも、初めて出来た誰かとの繋がりを断ち切りたくない。

俺は―
“仲間”を守りたい。






大鎌の刃を下ろすと、リジェクトの上から退く。

未だ足元をふらつかせながらも、デスは魂も狩らずにリジェクトに背を向け、其処から出ていこうとした。


「ど、何処行くんだ…?」


リジェクトは起き上がって、驚愕混じりに訊ねる。

するとデスは足を止め、僅かに振り向きながら答えた。


「…ジェントルも今、此処に向かっている。それを迎え撃つ」

「え…それって、つまり」

「…俺にもようやく、“自分の意思”というものが芽生えたようだ」


そう話した時のデスの声は、微かに笑った様であった。



「…今まで狩った魂は全部、旧校舎の理科準備室に隠してある。狩られた肉体の方は、この学校の関係者の医者が管理してくれていると聞いた…」

「…何でそんな事を僕に言うのさ?」

「…お前なら託せると思ったからさ」



するとデスはリジェクトの返事も聞かず、そのままカーテンを潜ると振り返ることなくその場を立ち去った。



個室に区切られたベッドのカーテン内から出ると、室内にいた保健委員の一人が彼に声を掛ける。


「あ、キミ!手当てまだでしょ、こっちに…」

「いや、いい。行かなきゃならない場所がある」

「?そ、そう…?」


やけに確りした声色に、委員の生徒は戸惑った様に退いた後、別の人の手当てに移った。

デスはそのままつかつかと通り過ぎると、人知れず保健室を後にした。


向かうはジェントルの下。
二手に別れた際行く方向を見たから、どの道から来るのかは大方予想がつく。


それを迎え撃つべく、デスは廊下を歩き出した。

手に持つ大鎌を、きつく握り締めて。


*Next…?*


* * * * * * *


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