共闘

2013.06.20.Thursday




* * * * * * *


ルゼの放った弾頭で、戦況は大きく変わった。


大鎌を振るうデスを相手するには、武器を持っていない壱鬼にとっては不利極まりなかったのだが、新たな助っ人の参戦に勝利の兆しが見えた。


「おう!誰だか知らねぇけど助かった!」

「俺は自称科のエハゼル・ヴァルゼ…ルゼで良い」


いいながら、ルゼはリボルバーのシリンダーを開き弾を落とす。

ちゃりちゃりん、と落ちた空の弾が音を立てる中、次の弾薬を手早く装填していると、壱鬼の後方にいた沙羅が溜め息混じりに呟く。


「はぁ…良かった、一時はどうなることかと思ったけれど、これで勝てそうね」

「あぁ、少し危なかったけどな!」

「はぁ!?何言ってんのよバカ鬼!元はと言えばあんたが原因でしょうが!」





―遡ること、少し前。


ジェントル、デスと対峙していた壱鬼は、二人同時相手に苦戦を強いられていた。

壱鬼は一対一を好む戦法ゆえ、こうなるのは目に見えていた訳だが。

そこへ偶々通りかかった沙羅が、見かねて廊下の曲がり角の影から援護したのだが。

デスの攻撃を阻む壁が突然現れた瞬間、壱鬼は驚きながらも悟った。


―この術、どっかで見たことある。そうだ、沙羅の錬金術ってやつだ!と。


そうして壱鬼はちらりと後方を振り返った所、廊下の角からちらりと見える金髪のふわふわとした髪。

それを見つけた瞬間、壱鬼は叫んだ。


「ありがとな、沙羅ー!!」

「…!!」

「おや、君のお仲間かね?」



―こうして沙羅の存在が敵に発覚、彼女も渋々戦禍に加わる事となった訳である。



そうして何とかジェントルを気絶にまで追い詰め、残るはデスのみとなった時、こうしてルゼの助太刀が入った。

大鎌とリボルバー、接近戦と遠距離戦の武器である。

デスとルゼの立ち位置からして、ルゼが圧倒的有利なのは誰の目から見ても分かる事実だった。


「よっしゃ、頑張れルゼー!」

「…OK」


装填し終えた拳銃を、デスに向けるルゼ。

射抜くような鋭い眼差しでデスを見据え、引き金を引こうとした時だった。



一際大きな銃声が響いた。

刹那、ルゼのくわえていた骨が弾ける。


驚愕したルゼは、その音の先を見遣った。すると其処には―


「やれやれ…頭突きとは、見た目通り野蛮な戦い方をするね…」

「!!ちょ、バカ鬼!あいつ目覚めちゃったじゃない!」

「あ?…頭突き弱かったかな?」


沙羅と壱鬼が慌てる中、ルゼの視界には崩れた檻の中から起き上がってくる、ジェントルの姿が映っていた。


「ああ、やはり仮面がへこんでしまっている…全く、一撃で葬って進ぜると言うのに手を煩わせるものだね、君達は」


微かな怒気を孕んだ声色で話すジェントル。

同じ銃を扱う相手として油断ならないと判断したのか、ルゼの意識はそちらに気をとられていた。



それを良いことに、デスは再び大鎌を持ち直すと、気が緩んでいた壱鬼に再度襲いかかった。


「きゃっ!?」

「うぉっとぉ!?」


沙羅は身を屈めてかわし、壱鬼も紙一重で凶刃を避けた。

しかしデスの狙いは壱鬼のみらしく、沙羅には構わずに赤髪の彼にだけ次々と刃を振るって行った。



一方、ジェントルと対峙するルゼの間には、張りつめた空気が漂っていた。


「ほう、中々良い眼をしているではないか、君。実にスマートな戦いが出来そうだ、気に入った!」

「……御託はいい。貴様、名は」

「ふむ、お喋りは嫌いかね。そしかしのスマートな性格、益々気に入ったよ!…私は回廊構成員、ジェントル。以後、お見知り置きを」

「…エハゼル・ヴァルゼ。ルゼだ」


気は一切緩むことなく、名乗りを淡々と口にするジェントルとルゼ。

どちらが先に動くのかと、じっと互いが互いを見据えていた中。

突然ジェントルが呟く様に話し出した。


「…そうそう、この場には中々油断ならない術を使う者がいてね」

「…?」

「小さなレディ、君の事だよ。“Adieu”」

「!!」


ジェントルががちゃり、と音を立て銃口を向けた相手は、密かに錬金術の術式を書き連ねていた沙羅だった。

はっと顔を上げる沙羅だったが、逃げるには遅かった。

ジェントルは引き金をひき、凶弾を放った―

刹那、ルゼは彼女を庇う様に飛び込んだ。



音を上げる拳銃、宙を舞うカウボーイハット。



…辛うじて身体に当たらなかったらしい。

ジェントルの放った弾は、ルゼのハットを射ぬいていた。


「っ、大丈夫か!?」

「え、えぇ…」


廊下の床に沙羅となだれ込んだルゼは、直ぐ様彼女の安否を確認する。

沙羅は半ば唖然とした様子ながらも、彼の言葉に返事していた。


だが、この一連の動きで形勢は一気に不利となった。

沙羅を庇う様にしながら、忌々しげにジェントルを見上げるルゼ。

ジェントルは有利な位置に立った事を悟ったのか、悠々と銃に弾を込める。


「いやはや、身を呈してレディを助けるとは見事だ!…しかしその甘さが命取りとなったね、ルゼ君」

「………」


悔しげに舌打ちをするルゼは、リボルバーをきつく握り締めた。
どうやら一瞬の隙が無いかを狙っているらしい。

しかしジェントルも準備が整ったらしく、再度銃口を二人の方に向けた。


「さて、君はそこの小さなレディを庇っているようだが…生憎私の銃の威力は強くてね。君達二人を貫通する事など容易いのだよ」

「くそっ…」

「残念だったな、若者よ。せめて華々しく散りたまえ!」


そしてジェントルは、ぐっと手に力を込めた。

が、突如威勢の言い声が脇から舞い込んだ。


「うらぁぁぁッ!!!」

「ぐぁっ…!?」


声と同時に、ジェントルの身体に誰かがぶつかってきた。

その者と一緒に吹っ飛んだ彼は、三人から少し離れた位置に倒れ伏した。


「っつ…デス君、一体君は何をしているんだね!私の邪魔はしないでくれたまえよ!!」

「………」


吹っ飛んできた人物、デスを叱咤するジェントル。

しかしデスは、壱鬼に滅多うちにされていたらしく、歪だった仮面が更に変形していた。

おまけに息まで上がっている。


「だっはっはぁ!死神野郎、オメーの攻撃は見切ったぜ!そんなでっかい武器じゃあ、攻撃パターンなんざ大体決まっちまうもんなぁ!」

「…身に覚えがあるから分かったんでしょ、バカ鬼」

「うぐっ…!そ、それはっ…」

「成る程、同レベルだから分かったと…運が良かったな」

「ちょ、ルゼてめぇぇ!地味にひでぇ事言ってんじゃねぇよコラ!」


ぎゃあぎゃあと内輪揉めする三人だが、回廊の二人はこのままだと不利に陥ると悟ったらしい。

ジェントルはぼそぼそと呟く様に、デスに指示をする。


「このままだと、我々がやられる事となりかねん…我々の目的は元回廊の始末。その遂行を優先するぞ」

「………」

「まずは居場所が割れている、亡者の覆面のレディから始末するぞ。二手に別れて向かう、いいな」


ジェントルの言葉に頷くデス。

二人は立ち上がると、三人からの逃亡を謀る。


「さて諸君!我々は目的があるので、この辺で失礼させていただくよ!」

「あ!?待てコラ、喧嘩はまだ終わってねぇ…」

「“au revoir”!」


刹那、廊下は強い閃光に包まれた。


「うおっ…!?」


その不意討ちを食らった三人は、眩しさに目を眩ませていた。

そして次第に視覚が正常戻ってきた頃には、ジェントルとデスの姿は忽然と消えていた。


「…はぁ、逃げられたな」

「くっそぉぉ!あとちょっとであの死神野郎に勝てたのに!!」

「それにしても、あの二人何者だったのかしら…」


それぞれの思惑がありながらも、回廊を退けた三人は気を取り直し互いに礼を述べていた。



「ま、とにかく…沙羅、ルゼ!ありがとな、助かったぜ!」

「こちらこそ礼を言わせてもらうぞ、壱鬼」

「この礼は高くつくわよ、バカ鬼?」

「げぇ、マジかよ…」

「当たり前じゃない!私だってアンタの所為で命懸けだったんだからね!」



げんなりする壱鬼を言い負かす沙羅の様子を見て、ルゼも楽しげに微笑んでいた。

ふと壱鬼は、思いついた様子で提案する。



「そうだ!おい二人とも、俺らの出し物に来ねぇか!?」

「出し物…?」

「確か妖人科の出し物って…ホスト風喫茶よね?」

「ああ、助けてもらった礼にサービスしてやるよ!」

「…それは悪くないな」

「まあ、行ってあげない事もないけど?」

「よっしゃ、なら決まりだな!それじゃさっさと行くぜ!」



賛成してくれた二人の言葉を聞き、壱鬼はにっと笑う。

そして、最後に一言。



「ちなみにサービスはジュース一杯だけな!!」

「「うわっ、ケチー!!」」



壱鬼の言葉に、二人の同時のツッコミが廊下に響き渡っていた。



*END*


* * * * * * *

折角お子さんお借りしたのに、中々活躍できずにすみませんでした…!orz

22:38|comment(0)

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