三人の食事事情

2013.06.16.Sunday


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「二人とも、今日の夕飯はどうするんだ?」


俺がそう訊ねると、壱鬼と孤乃衛はこの時ばかりは息の合った返答をする。


「「竜彦に任せる」」


―今まで何度も耳にしてきた、何とも聞き慣れた返事である。






二人は今、俺の部屋に遊びに来て各自で持ち寄ったゲームに興じている。
先日孤乃衛が買ったと言っていたそれは、二人対戦用の、いわゆる格ゲーだった。

しかし技術面でのセンスは壱鬼の方があるらしく、最初こそは連敗していたものの、数を重ねるごとに奴の腕前はみるみる上がって行く。
そして今や、持ち主の孤乃衛よりも断然に上手くなっていた。


「なっ、壱鬼お前せこいぞ!それ完全にはめ技じゃねーか!」

「ちげーよ連続技だっての!つーかお前の持ちキャラピヨり過ぎ!」



次第に負けが続くのが悔しいのか、あるいはプライドに障るのかは定かではないが、珍しく狐乃衛が声を荒げる。それに対し、壱鬼は嬉々とした様子で狐乃衛を小馬鹿にしている。

二人して言い争いをしながら夢中になってゲームをするその姿は、さながら小学生のようだ。それも低学年の。

そんな子供じみた友人二人の背中を暫し眺めた後、俺は夕飯の献立を考えながらキッチンへと向かった。








俺の部屋は、寮を借りて其処に住んでいる。
朝夕食事付きだが、一週間に一度、夕飯無しになる日がある。
何でも“自炊”という、学生の自立を図るための学校の方針だそうだ。
そうしてこの日に限っては、決まって例の友人二人が必ず俺の部屋に遊びに、否、夕飯をたかりに来るのだ。

しかし今となっては最早、そんな習慣に慣れきってしまっていた。
むしろそれが普通になりつつある。


(あいつらには、自立する気というものはないのだろうか…)


友人二人の将来を案じつつ、冷蔵庫を開く。
材料をざっと見た後、今日の献立のメインになりそうな物に目をつけた。


「…唐揚げにするか」


二人とも、野菜や魚よりも断然肉派だ。
これなら何も文句も出ないだろうと思い、早速下準備から取り掛かる事にした。








夕飯の調理を初めてから暫く経った頃、匂いに釣られたのか二人がキッチンへと顔を覗かせにきた。


「あー騒ぎ過ぎて腹減った…」

「竜彦、何か手伝おうかー?」

「ああ、それじゃあ皿用意してくれ」


申し出た孤乃衛に、すかさず指示を出す。
一方で壱鬼は、既に出来上がっていた今日のメインに目を付けていた。


「お、今日唐揚げか。じゃあ一つ味見…」

「あ、ずりーぞ壱鬼、俺にも一つ!」

「待て」


唐揚げに手を伸ばそうとする二人に、やや強めに制止の声を投げ掛けた所、ぴたりと動きを止めた。
そんな二人の前に、俺はレンジの上にあったある物をどんと置いた。


「まずは払ってからだ」

「「…へーい」」


二人の前に置いた物。それは、以前福引きで当てた、河童の貯金箱だった。
ちなみに腹部には「夕飯代三百円」としっかりマジックで描いてある。


“払わざる者食うべからず”

二人がこうして俺の元を訪れるようになってから出来た規則である。

こうでもしないと、この二人の場合は毎日でも俺の所にたかりにくるだろう。幾らなんでもそれだけは御免だ。



狐乃衛は長財布を開け、壱鬼はポケットの中をまさぐってそれぞれ三百円ずつ、貯金箱の中へと投下した。

ちゃりん、と音を立てて小銭を飲み込んだそれは、随分と上の方まで競り上がってきている音がした。



それは、二人がどれだけ俺の所を頼りにしてきているのかを示しているのだが、これ以上深く考えると何だかめまいがしそうだったので、気にせずに調理を進める手を再び動かすことにした。



*END*







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おまけで料理する竜彦

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