陰陽科の日常

2013.06.20.Thursday


* * * * * * *


窓際の席に腰掛け、外を見下ろしながら昼食のパンをかじるのは、陰陽科三年の男子生徒、卜部 武だった。

昼休みで賑わう教室だが、そんな空気から外れて彼はぼんやり思いふける様に、じっと何かを見つめていた。



そんな彼に近付いてくる、大柄な人影が一つ。

しかし武はそれに気付かない様子で、依然として外を眺めていた。

ずかずかと近付いてきたその人物は、威勢の良い声と共に彼の背中を叩く。


「よっす武!!」

「んゴフッ!?」


ばしん!と痛々しげな音を立てて叩かれた方は、食べていた物を詰まらせたらしく、げほげほと咳き込む。

暫く噎せていたがようやく落ち着いたようで、武は顔を上げその人物を睨み付けながら怒鳴る。


「何すんねん金次!お前、俺を殺す気か!!」

「ん?そんなに力込めたつもりはなかったが…」

「お前の場合は並みの人間と腕っぷしが違うんや!こんの馬鹿力が!」

「ははは、悪い悪い!」


武の言い分に、金次と呼ばれた彼は、軽く両手を合わせながら苦笑いした。

そして武の前の空いていた席に、そのまま腰を掛ける。


「で?何でそんなにボーッとしてたんだ?」

「…別に、何でもええやろ」

「…あれか?」


外方を向いてまた昼食を食べ始めた武だが、金次は先ほどまで彼が見ていた方向に視線をやった。

金次の目が捉えたのは、友達と歩く、茶色い髪をポニーテールにした女子生徒の姿だった。


「…まだ踏ん切りがつかないのか」

「当たり前やろ。そう簡単に割り切れるか」


金次の言葉に、武は険しい顔付きで返答する。

その返事に、金次は困った様な顔で溜め息をついただけであった。



話題を切り替えるように、金次はふと思い付いた様に言う。


「そういえば、ポニテなら頼子も結えばそうなるんじゃないか?ほら、茶髪だし…」

「あれは長すぎや。それに色も明るい」

「はは…同じヘアスタイルでも判定が厳しいのな」


こだわりがあるらしく、武の言い分に苦笑する金次。

が、そんな二人に目掛けて二つの物体が、教室の中を飛来した。


「あだぁっ!?」

「おっと!」


その物体を、武はガンッという音を立てながらこめかみ辺りで受け止め、金次は難なく左手でキャッチした。

当たった箇所を抑えて痛がる武を尻目に、金次はその物体を確認する。


自身の左手に掴んでいたのは、冷えた缶ジュースだった。

それを確認した後、飛んできた方向に顔をあげる。

すると彼の瞳は、ある人物の姿を捉えた。


「おー、威綱!これお前の奢りか?」

「…以前実習で、足りなくなった式札を分け与えて貰った礼だ」


そう話すのは、教室の出入口付近に佇む同クラスの渡部 威綱だった。

彼は淡々とそれだけ言うと、早々にその場を離れようとする。

しかしそんな彼を呼び止める男の声が、教室中に響き渡った。


「お前まで何すんねん威綱ァ!!毎度毎度不意打ちしよって!」

「…それはお前の注意力不足だろう。少しは鍛えて精進しろ、阿呆が」

「なんっ…なんやと貴様ぁぁ!!」


返された言葉に憤りを露にする武だが、威綱は平然とした様子でそのまま、すたすたと教室を立ち去った。

教室内にいた他の生徒も、どうやらこれが日常茶飯事らしく、何事もなかった様に相変わらず賑わっている。


「ったく…何やねんアイツ!スカした顔しよって、あぁぁほんま腹立つ!」

「まあまあ、そう言うな武。こうしてジュースも貰ったわけだしな」

「それとこれとは話が別や!これは返すべきモンを返しただけ、当たり前の事やっちゅーに!」


言いながら、武は足元に転がっていた缶ジュースを拾い上げ、そのままプルタブに手をかけた。

しかし金次ははっとした様子で、彼を止めようとした。



「待て武!それ炭酸っ…」

「ブフゥッ!?」


時既に遅し。

プルタブ部分に力を込められた缶は、勢い良く中身を噴出した。

おかげで武と金次は頭からジュースを被り、机や周囲にまで飛沫が飛び散っている。


「…あぁんのロン毛白髪野郎ぉぉぉ!!!!」

「いや、今のはお前が悪いと思うぞ、うん」


八つ当たりに近い怒りの叫びを上げる武とは対照的に、金次は苦笑いしながら宥めるばかりであった。









「うわー…また馬鹿やってるよ、あの馬鹿」

「光、そう言わないのー」


教室の離れた席から昼食をとりつつ一部始終を眺めていた碓井 光と源 頼子は、各々呆れ顔と苦笑の表情を浮かべていた。

二人の傍らの席には佐藤 郁もいたが、机に突っ伏していたので顔は窺えない。


「まあ、私達に被害なかったから良かったね」

「正直どうでもいい」

「「郁…」」


突っ伏したまま相変わらずの無気力発言をする彼女に、二人は先程と同様の眼差しを向けるばかりであった。


*END*


* * * * * * *


何だろう、卜部を動かせば動かすほどどんどんアホキャラになってってる気が←
ドジっこってレベルじゃねーぞ!

22:24|comment(0)

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