死神、ボコられる
2013.06.20.Thursday
* * * * * * *
廊下を走る、二つの足音。
一つはリジェクト、そしてもう一つはデスのものであった。
暫くは一定のペースで走り続けていたが、一つの足音が不意にそのスピードを緩めた。
「はぁっ…この辺で、いいか…」
やや息を切らしながら先に足を止めたのは、骸骨の覆面をした彼女だった。
それに続いていた死神姿の男も、距離をおいて立ち止まる。
リジェクトはその後方から続いて来ていたデスの方に振り返りながら、淡々と話す。
「ちゃんとついてこれたみたいだね。…まあ、そっちが見失わない様にスピードも緩めてたけどさ」
「………」
此処で自分を見失えば、デスは他の元回廊メンバーを探し始めるだろう。
そう考えたリジェクトは、それだけは避けるべく、わざと走る速さを調整していたのであった。
しかしデスはやはり無言のままで、じっと彼女を見据えているばかりであった。
そんな相変わらずな様子の死神にリジェクトは、ため息混じりに言葉を続けた。
「…君は相変わらずだね。まあいいや、此処なら遠慮なく戦える」
「………」
「デス。僕への“攻撃”と“反撃”を拒絶させてもらうよ」
先ほどの教室と違い、今は周囲に人がいない。
漸く心置きなく戦える環境になり、リジェクトは再度応戦の構えをとる。
そしてそれに応えるかの如く、デスも両手で大鎌を持ち構えた。
張りつめた空気の中、無言で向き合う二人。
その空気の中を先に動いたのは、リジェクトだった。
軽やかな足音と共に、長身の死神へと突進した。
瞬時に下段蹴りを放つも、鎌の柄で塞がれる。
しかし間髪入れず、次は振りかぶって右ストレートを入れた。
やはり大鎌で全て防ぎきるのは難しいのか、デスはその打撃を防御姿勢の左腕で受け止めた。
だがその衝撃に、長身の身体は微かにふらつく。
その僅かな動揺を、リジェクトは見逃さなかった。
「はっ!!」
「…!」
意を決した様に彼女は、捨て身覚悟でデスに体当たりをした。
そんな攻撃は予測していなかったのだろうか、その大きい衝撃を細身の死神は受け止め切れず、そのまま廊下の床へと倒れ込んだ。
「ッ…!!」
仰向けのデスの上に跨がり、リジェクトは彼の襟首を掴んで顔を殴打した。
しかし拳はマスクに辺り、がつんと痛々しげな音が周囲に響く。
それでも彼女は内に秘めた感情をぶつける様に、何度も何度も彼を殴り付けた。
がつん、と一際大きな音が響き渡った後、その殴打する音が止んだ。
デスの歯列型のマスクは変形し、幾つものへこみが出来ていた。
リジェクトの拳にも血が滲み、どれだけの力を込めていたのかも推測される。
おかげで、横たわるデスよりもリジェクトの血を滲ませる手の方が、痛々しげなさまとなっていた。
それでも殴ることを止めなかったのは、きっと彼女の中に固い意志があったからなのだろう。
殴ることを止めた彼女は、低く静かな声でぽつりと呟いた。
「…何で」
「…?」
「何で防御しないんだよ、僕を止めようとしないんだよ!?お前、此処で殺されても良いのかよ!!」
今まで抑え込んでいた感情をぶつける様に、リジェクトは怒鳴った。
仲間意識の強い彼女は、今は回廊を抜けたとはいえ、元々仲間の一人であったデスに対してもその意識を少なからず抱いていたのだろう。
それがたとえ、仲間を始末する人物であっても。
リジェクトはデスの襟首を掴んだまま、黙って彼を見下ろす。
一方、その下敷きになっている彼は少し咳き込んだ後、ぼそぼそと答えた。
「……に…」
「…?」
「別に、死んでも構わない…」
「っ、このッ…!!」
“生きる”ことに執着を見せないデスの言葉に、今まで彼に魂を狩られた仲間が哀れに思えたのか、リジェクトは激昂した様子で再度右手を振り上げた。
その拳には赤い液体が滴り始めていたが、それでも構わず彼女はその手を降り下ろそうとした。
―瞬間、彼女の背後から声がした。
「“Adieu”」
その台詞と同時に、一つの銃声が無人の廊下に響き渡った。
*Next…?*
* * * * * * *
彼女は普段は素っ気ないながらも、内心は滅茶苦茶仲間想いの良い子だと思ってます(キリッ)←
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