死神、発見する
2013.06.20.Thursday
ちなみに時系列は、学園祭前かと。
* * * * * * *
清水から命令されて、俺はフォレスト学園へと潜り込むことになった。
自由な校風のこの学園は、俺の様な奇妙な出で立ちの奴でも受け入れるらしい。
校門を潜る際、誰も俺を咎める者はおらず、すんなりと中へ足を踏み入れることが出来た。
そうして元回廊の四人を探し、校内のあちこちを巡った。
途中、学園の生徒とすれ違うことが度々あったが、向こうは俺に特別気に掛けるでもなく、また俺もそいつらに手を出すつもりはまだなかった。
今、ここでそいつらの魂狩りを行えば、後々面倒になる。
それならば先に四人の魂を狩るのが、一番効率の良いやり方だろう。
そうしてふらふらとさ迷い歩き、校内の中庭を徘徊していた時だった。
花壇の草花の中に、一羽の鳩がいることに気がついた。
猫や狐などの天敵にでもやられたのだろうか、その鳥は羽を血で濡らしながら、土に身体を伏している。
最早羽ばたく力も残っていないらしく、叢の中に横たえたその身体には、餌として食む黒い蟻がたかり始めていた。
しかし弱々しく瞼を動かし、苦し気に嘴を動かしているところからして、まだ命の灯は燃え尽きていないらしい。
だがじきに息絶えるであろう事は、目に見えて分かる。
―生きながら虫に身体を蝕まれるというのは、どんなものなのだろうか。
苦しみはほんの一時なのだろう。だが果たして“死”とは、本当に恐ろしいものなのだろうか?
普段無心な事が多い俺だが、こういった“死に際”に出くわした時ばかりは、こうした途方もない疑問が何故か頭に湧いた。
そして今回も、ぼんやりとそんな事を考えながら、俺は手にしていた鎌を持ち直した。
そしてその先端で、鳥の首を掻き斬った。
しかし鳥の頭と身体は切り離されず、その形のままを保っている。
そして鎌の刃には血が付く代わりに、橙色になったり蒼白くなったりと常に様々に色を変えて燃える、輝く液体が付着していた。
この、七色に輝きながら燃える液体こそが、生き物に宿る“魂”だった。
俺は腰に提げていた小瓶を一つ手にすると、刃に伝わらせてその液体を詰める。
死にかけていたので分量は少ないが、それでもやはり魂というものは、不思議な美しさと魅力を持ち合わせていた。
小瓶を再び腰の鎖に取り付けると、俺は今狩り取ったばかりの鳥を見た。
目は虚げに開かれ、今度は苦しそうに嘴も動かしてはいなかった。
「………」
苦しみながら死ぬよりはきっと、こうしてやった方が幸せなのだろう。
生憎俺には感情というものが良く分からないが、きっとこのもやもやとした不思議な心地も、何かしらの感情の一つなのだろう。
その不可解な心境を振り払う様にして俺は、また四人の捜索を開始した。
鬱屈な空気を纏った男―デスは、覚束ない足取りでフォレスト学園内を徘徊していた。
やや猫背な姿勢でふらふらと歩むその細身の姿は、端から見れば不気味極まりないものであった。
しばらくはその状態で歩みを進めていたが、ある教室の前まで来るとぴたりと足を止めた。
「………」
中から聞こえてくる会話に耳を傾ける様に、デスはゆっくりと顔を上げてそちらを見る。
「……ところで、自称科の生徒って皆何処行ったわけ?」
「ああ、それが…実は私にも分からないんだ!何せ、この科は自由奔放な部分が多くてね」
「神代先生…もうちょっと授業らしい授業したらどうですか?」
そんな談笑混じりの声が、三人分聞こえてきた。
すると、その内の一つに聞き覚えがあったのだろうか。
デスはまた緩慢な動作で、その教室のドアの取手を掴むと、ゆっくりとその扉を開いた―
突如開かれたドアに、中にいた神代 理人、川越 寧々子、そして元回廊のメンバー、リジェクトは皆一斉にそちらを見た。
三人の目線の先に立っていたのは、鼻口を覆う歯列型の仮面を付け、紫色の大鎌を手にした異質な雰囲気を放つ、死神だった。
しかしこの学園には、彼の様な奇抜な外見の者が数多存在する。
それ故、自称科の担任である神代はその死神を訝しがることなく、不思議そうに彼に訊ねた。
「やあ、君は…他の科の生徒かな?それともこの科に転入を希望する生徒かい?」
「先生、それにしては少し様子が…」
やや戸惑った様子の寧々子がそう話したが、不意に今まで椅子に腰掛けていたリジェクトが、大きい音を立てながら唐突に立ち上がった。
「デス。何で…お前が、此処に」
「………」
口調は淡々としているが、微かに焦燥混じりに訊ねるリジェクト。
しかしデスの返事はなく、依然として其処に立ち尽くしていた。
そんな二人の様子と会話から察したのか、寧々子がリジェクトに声を掛ける。
「あら、リジェクトさんの知り合い?」
「…二人とも下がってて。アイツは回廊のメンバー、デスという奴だ。要らなくなった構成員の始末している」
「え!?そ、それは…つまり…」
寧々子が驚愕混じりに訊ねると、リジェクトはデスを見据えたまま静かに答えた。
「そう、元“仲間”の処分をしているんだ。…そして僕も、そうするつもりで来たんだろうね」
何処か忌々しげに言いながら、彼女はつかつかとその死神に近付いて行く。
その様子に、神代が慌てたように声を上げた。
「リ、リジェクトさん!?その彼は君の命を狙っているんだろう!?一体何を…!」
「僕なら大丈夫。…それに狙いは僕だけだから、二人には手出しさせないよ」
リジェクトの能力、拒絶。
その力を以て、彼女はデスに対しての勝算を見いだしていた。
神代と寧々子が後方で心配そうに見守る中、リジェクトは先手を打った。
「デス。僕への“攻撃”と“反撃”を拒絶する」
「………」
能力が発動し、攻撃の類いを封じられたデスだが、彼は相変わらず微動だにせず、無言で立ち尽くしていた。
しかし不意に手が動き、彼は両手で大鎌を構えた。
―攻撃が出来ない分、防御に移ったか。
けれどあの大柄な武器では、素早い動きには全て反応出来ないだろう。そこを攻めれば、勝てる―
ぎゅ、と拳を握り締めるリジェクト。
刹那、先に動いたのはデスの方だった。
今までの緩慢な動作は何処へ、流れる様な動きで瞬時に間合いを詰める。
応戦の構えをとったリジェクトだったが―
デスはそんな彼女の脇をすり抜け、後方にいた二人に刃を振るった。
「わあぁぁっ!?」
「ッ…!?」
降り下ろされた凶刃に、二人の悲鳴が上がった。
そのデスの行動に、リジェクトは驚愕しながら後ろを振り返った―
…幸い二人は俊敏に反応し、咄嗟に刃をかわしていたらしい。
大鎌の先端は床に突き刺さり、神代と寧々子は各々その刃から距離を置いた位置に避けていた。
「おい、デス!お前の狙いはこの僕だろう!?何でその二人を狙うんだよ!?」
予想外の事態に、リジェクトは思わず声を荒げた。
するとデスは、細い腕にぐっと力を込めて刺さった大鎌を抜きながら、ぼそぼそと答える。
「…清水からの指令。狩るのは、学園生徒でも構わない…」
「…!!」
その言葉に、元回廊の骸骨は息を飲んだ。
―この二人だけは、絶対に巻き込んではいけないと思ったのに。
僕の心までもを救ってくれた恩人達だ、何がなんでも守らなくては―
その意識が、リジェクトにある決意を下した。
「…デス、予定を変更だ。神代理人への“攻撃”を拒絶、そして川越寧々子への“攻撃”を拒絶する」
「………」
その言葉にデスは、ゆっくりとリジェクトの方を見た。
彼女は教室の出入口を背後に、死神と対峙する様に立っている。
「今度は僕が無防備になった。さて、これで遠慮なく僕の命を狩るのに専念出来るだろう?」
「………」
その言葉に従うかの様に、デスは彼女の方に向き直りながら大鎌を手に構えた。
その行動を見て、リジェクトは誰も気付かないくらいに小さな安堵の溜息を洩らしていた。
「…神代先生に寧々子さん、これから僕はこの死神と戦うことになる。でも二人とも、手出しはしちゃ駄目だよ。これは、僕の“けじめ”でもあるから」
「………」
そのリジェクトの言葉に、神代と寧々子の二人は返答しかねる様子でいた。
そうする間に、デスはゆっくりと骸骨の覆面を被った彼女の方へと近付き始めた。
それを見たリジェクトは、意を決した様に掌をぐっと握って、一歩一歩近付いてくる死神に言い放った。
「精々見失わない様に着いてきなよ?僕だって、素直にやられる様な奴じゃないから、ねっ…!」
言い切らぬ内に、たん!と軽やかな足音を立てて、リジェクトは教室を飛び出し廊下を走り出した。
それに続くように、デスも緩慢な歩みから次第に速度を上げて彼女の後を追った。
後に教室に残っていた理人と寧々子の間には、困惑した様な重々しく張りつめた空気が未だに残留していた。
*Next…?*
* * * * * * *
デスはリジェクトさんを発見してしまいました…(>;´Д`)>フォォォ!!
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