今、向かいます

2013.06.20.Thursday


* * * * * * *


学園祭真っ只中、女性客で賑わう妖人科の教室、もといホスト風喫茶“AYAKASHI”。

各々指名が入り、対応に追われている中、一人の男だけが不機嫌そうにぽつんと腰を掛けていた。


「くっそ…何で俺だけ暇してんだよ…!」


そう呟くのは、悪い目付きを更に鋭くしている壱鬼。

彼はどうやらまだ、指折り程度しか接客していないらしい。

そんな彼の呟きを偶々耳にしたボーイ姿の由烏が、横やりを入れた。


「そもそもあの写真が悪いんじゃろ。あれじゃ、わらわだって指名しとうないわ」

「あ?何でだよ、すっげーウケそうな写真じゃねぇか」

「まあ、ヤンキーとかの喧嘩売り買いには大ウケじゃろうな…」


全く疑問に思わない壱鬼に対し、由烏は溜め息混じりに返答した。



するとその時、教室の中に一人の少女の声が飛び込んできた。

「白沢先生!!なんかヤバイのが出たって…桜花先生が走って行っちゃいました!!!」

「…は!?」


突如現れた少女は、座敷わらしの格好をした楠木 野乃果だった。

その彼女の声に、教室は一時騒然となる。

しかしパニックに陥る事を避けるべく、機転をきかせた狐乃衛が中心となって、客達を宥め話していた。


そんな中、恋人となった女性の名を耳にした白沢は動揺しつつも野乃果に話を聞く。

「ヤバいのって…またモンスターとか化け物の類いか?」

「わ、分かりません!でも桜花先生、一人で武器も持たずに行っちゃいました!」

「そうか…情報ありがとうな、楠木」


不安そうな表情の野乃果を宥める様に、白沢は立ち上がりながら彼女の頭を軽く撫でた。

そしてきっと顔を上げ、接客していた女性に振り向かずに言い放つ。


「すみません、ちょっと席を外させて頂きます…行かなければならない所があるので」


そうして歩き出そうとした、が。


「やぁん、行かないでぇ白ちゃ〜んv」

「ごふっ!?」


完全に酔っ払っているその女性客は、勢い良く白沢の背後から飛び込んだ。

不意討ちをくらった白沢は、目の前にあったソファーに勢いよく倒れ込む。


「ちょ…お、お客様困ります!急ぎの用事なので…!」

「やだぁ、白ちゃんいなくなったら寂しいっ」

「くっそ、誰だ酒なんて置いた奴はー!!」

「「アンタだろ」」


女性客にしがみつかれ身動きがとれない白沢は、思わず非難の声を上げる。

しかし間髪入れずに、生徒達からの突っ込みを頂いていた。


「くっ…こうなったら壱鬼、お前が行け!」

「は!?俺かよ!?」

「ああ、お前が一番暇そうだからな!」

「う、うっせぇよバーカバーカ!」


図星を当てられ、若干涙ぐみながら悪態を吐く壱鬼。

しかし実際、皆客の対応に追われている上、先頭能力も兼ね備えて赴けそうな者はいない。

壱鬼はふうっと溜め息を吐くと、勢いよく立ち上がった。


「今度寿司奢れよな、白沢」

「ああ、後から俺も行くからひとまず歯止めしとけ」

「おうよ、任しとけ!」


握り拳を反対の掌に打ち付けて気合いを入れると、赤髪の鬼は威勢良く教室を飛び出して行った。



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…ということで、白沢の代わりにまずは壱鬼が援護に向かいました←

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