壱鬼の男気
2013.06.19.Wednesday
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某日に行われた補習授業という名の集まりにて、壱鬼は特殊能力科の生徒・十六夜ジャックとある約束を交わしていた。
しかしその約束は、壱鬼の容量の少ない頭を悩ませるには十分であった。
「あーあ…その場の勢いで言っちまったけど、マジで実行出来っかな…」
そう愚痴りながら廊下を歩く、鬼の彼。
今も彼を悩ませるその約束というのが、意中の相手―陰陽科の生徒・源 頼子と何か一言でも挨拶をする、というものであった。
過去に一度だけその相手とは面識があるのだが、それ以来まともに会話をした事はない。
そんな一回だけ顔会わせをした相手が覚えているものか、と今まで不安が付きまとっていたが、その補習授業にて十六夜から「彼女がお前の話をしていた」といった情報を得られた。
それを聞いた瞬間喜びと照れ臭さが彼の胸中に湧いたが、いざ対面して果たして挨拶できるのだろうか。
「…ま、この学校も広いから会う機会も滅多にねーし、何とかなるだろ!」
何とも能天気な男である。
まだ時間があるから大丈夫だと考えた彼は、伸びをしながらからからと笑う。
が。
向こうの廊下の角から、二人の女子生徒が曲がってこちらに来た。
「…!!」
その内の一人を見た瞬間、壱鬼の表情が一転した。
一人は赤ぶち眼鏡をかけた、黒のショートヘアの女子。そしてもう一方が赤のヘアバンドを付けた、茶髪のロングヘアの女子。
だが壱鬼の目は、ロングヘアの女子だけに釘付けだった。
そしてそのロングヘアの女子こそが、彼の意中の相手―源 頼子だった。
(いっ、言った傍から会っちまったしー!!)
一瞬にして胸が高鳴り、冷や汗が流れ出す壱鬼。
しかしその二人は壱鬼に気付く様子もなく、わいわいと話しながら彼の方に向かって歩いてくる。
「…で、私がその時すっ転んで、折角木綿衛門が買ってきてくれた玉子を割っちゃったんだよね」
「ふふ、光はいつも真直ぐしか見ないからね、足元にも気をつけないと」
仲良く会話をしながら歩く二人を意識しつつ、壱鬼も平然を装ってそのまま進行方向へと歩く。
そして互いに相手の顔がちゃんと認識できる距離にまで差し掛かった時だった。
壱鬼は最後まで躊躇っていたが、意を決した様に手の平をぎゅっと握り締めた。
ごく、と喉を鳴らして嚥下した後、声を発する。
「よっ…よぉ、元気か?」
その言葉に、通り過ぎようとした頼子は思わず足を止めて振り向く。
一瞬ぽかんとした表情を見せた彼女だったが、次の瞬間にはにこりと微笑んで答えた。
「はい、お変わりなく。そちらもお元気そうで何よりです」
「!!」
笑顔と答えに、壱鬼の顔は一瞬にして赤く染まる。
心臓は早鐘の如く高鳴り、口の中は最早かっらからである。
「そっ、そそそうか!それなら良かった!じゃあなっ!!」
口早にそれだけ言い残すと、鬼の彼は猛ダッシュでその場を立ち去った。
後に残された二人の女子生徒は、唖然とした様子で壱鬼が走り去った方向を見つめている。
「…頼子の知り合い?」
「うん、ちょっとしたね」
「妖人科に?」
「そう、あの人が前に話した彼だよ?」
「…あれが!?うーん、すっごい悪人面だったけど…本当に優しいわけ?」
「ふふ、人は見かけによらないものって言うでしょ、光」
「人ってか…妖人だけどね」
そんな対話をしながら、二人はまた廊下を緩々と歩き出す。
「やっぱり頼子って変わってるねー…」
「え、何で?」
「だって、妖人科と陰陽科って犬猿の仲じゃん…」
「でも光だって、麻布さんと仲いいでしょ?」
「ゆ、木綿衛門は特別!」
「えー」
くすくすと笑いながら歩く頼子と、少し慌てた様子の光。
そんな、密やかに妖怪との交流話をする陰陽科の女生徒達は、学園の廊下を歩き去って行った。
*END*
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頼子さんの友人として、光も友情出演(ぇぇぇ)
光の話してた内容は「割れた玉子を全部使ったんで、その日の晩御飯は玉子メニューパラダイスだったよ」というくだらない&誰得な裏設定つきです(マジ誰得)
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