行動は計画的に

2013.06.18.Tuesday


* * * * * *



黒い悪夢に女生徒が次々と攫われる最中、陰陽科の碓井 光は主従関係にある麻布 木綿衛門を従え、がらんとした廊下を駆けていた。



「しかし、何か助け出す手立てはないだろうか?木綿衛門」



走りながら光は、傍らを並行して飛ぶ木綿衛門に尋ねた。



「ふむ…小生にも中々良い案は浮かびませぬ」

「うーん、どうしたものか…」



二人して頭を悩ませながら、ただひたすら長い廊下をひた走った。







先程光は、空間の歪みの中へ引き摺りこまれる女生徒の姿を見かけたばかりであった。

咄嗟に刀を構えて、女生徒を取り込もうとするその黒い手に斬りかかろうとしたが、寸前のところで逃げられてしまった。

正義感の強い彼女は、その女生徒を救出できなかった事に悔しさと歯がゆさを感じ、こうして何か助け出せる伝手がないかを探しまわっていた。

しかしそうして無計画に走っていても、何かしら良い方法が出るわけでもなく、ただ悪戯に時間だけが過ぎて行く。





「はぁ…せめて担任の安倍先生がいてくれたら…」





光は現在不在の担任の顔を思い浮かべながら、一人愚痴る。



陰陽科の担任である安倍 晴幸(アベ ハレユキ)は、全国的に有名な陰陽師であり、フォレスト学園陰陽科三年の担任でもあった。

その為、神社仏閣からのお払いや祈祷、陰陽学会からの参加要請など、様々なところから声がかかり、よく学園を留守にするという忙しい人物だった。



今日も今日で地方の学会に赴いており、おかげで光の属するその学年は今日一日自習といった、自由奔放状態にあった。

しかも今日は立て続けに事件が勃発している為、今やクラスメイト達は皆何処へいるのか全く把握できていない現状である。





まとまりの無い陰陽科三年の状況に、光は大きな溜息を吐いた。

すると傍らでそれを見ていた木綿衛門が、気遣う様に彼女に声を掛ける。





「殿、お疲れとあらば休みましょうぞ」

「いや、大丈夫。ちょっと考え事をしていただけだから」

「左様か…もし休息をとるならば小生が抱えて飛びます故、何なりと申して下され」

「うん、ありがとう」



身を案じてくれる木綿衛門の言葉に、光の顔には自然と微笑みが浮かんだ。

そんな彼女の様子を見て、従属のその者もまた、顔を覆う布の下で表情を和らげるのであった。





しかしそんな二人の前方に、不審に蠢く影があった。



廊下の曲がり角から手招くその手は、先程女生徒を引き摺り込んだそれと同じもの。

それが視界に入った瞬間、光は今まで頭を占めていた考えが一気に吹き飛んだ。



「あれは…!くそ、逃がすものかっ!!」

「殿、待たれよ!もしや敵の罠やも知れませぬぞ!」



しかし光は木綿衛門の制止する声も聞かずに、そのまま手招く影に誘われるまま廊下の角を曲がって行く。

そして光の姿が木綿衛門の視界から消えた瞬間−



「うわーっ!?」

「殿ーッ!?」



光の悲鳴が上がった。

木綿衛門は慌ててその角から声がした方を覗き込むと、そこには−



案の定、空間の歪みの中へと引き摺りこまれそうになっている、光の姿があった。



「ゆ、木綿衛門!!助け…もがっ」

「だから申したではありませぬか!まんまと敵の策に嵌るとは!!」



後先省みずに突撃した光に、思わず叱咤する木綿衛門。

しかし今はそんな事を言っている場合ではない。



こうして木綿衛門は、ずぶずぶと沈んで行く光と彼女の愛刀の救出に追われるのであった。



*END*



* * * * * *

駄目だこの殿…早くなんとかしないと…

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