白沢の本気
2013.06.18.Tuesday
色々なお話をかいつまんでみましたが、時系列間違っているやもしれませぬ…
とりあえず、先生が廊下徘徊している辺りからスタートで。
* * * * * *
今日はこれで、何本目だろうか。
最早幾つ吸ったのかもわからない煙草を、また一本取り出して火を点ける。
廊下を歩きながら煙を燻らせるが、俺を注意する人は誰もいない。
どうやら殆どの人たちはシェルターに避難したらしく、廊下には現在誰一人もいなかった。
一部の生徒は非難が遅れたり、或いは頑なにその場に居残る者もいるようだが。
俺はその前者の方に、逃げ道を教える役割を担っていた。
ちなみに先ほど特殊能力科の笹川彗と雨宮聡に会ったが、大人の事情に首を突っ込んできたのでちょっと脅かしてやった所、二人は楽しそうにからかいつつ逃げて行った。
しかし自分のクラス問題児共と比べれば、全然可愛いものである。
色々と好奇心が疼く年頃なんだな、と思いながら、俺は追わずに溜息と一緒に煙草の煙を吐き出しただけだった。
恐らくはあの二人もシェルターに非難しそびれたのだろうが、特殊能力科の生徒である。いざとなれば自分の身は自分で守れるくらいの力は兼ね備えてあるだろう。
また出くわした時にシェルターのある方を教えてやろうと思い、俺はまた廊下を徘徊し始めた。
―そうして俺は、最初に事件が勃発した屋上へと向かっていた。
今はもう誰もいないだろうが、一応念のために見ておこうと思い、そこに続くドアを開ける。
少々錆びれたそれは、音を立てながら重たく開く。
清々しいまでの青空が広がるそこには、やはり人影は一つもなかった。
(これで大体見回ったかな…)
一度伸びをした後、また学校内に戻って中を見回ろうかと踵を返した時だった。
背後、上方から何か羽音がした。
それと同時に背中に感じる殺気。俺はすかざす両手から靄状の“気”を放つと、何かは分からないそれに向けて振り返りながら殴りつけた。
「ふっ…!」
ばこん、と音を立てて豪快に殴り飛ばしたそれは、現在空間に歪みが出来てそこから出てくるという、正しく“変なもの”だった。
鳥と似ているが、どこか違う。
大きさも形態も見たことのないそれは、俺の気が変化した靄に触れた瞬間、そこから灰と化した。
風に吹かれ、その鳥擬きは灰となった身をばらばらと散らして逝く。
跡形も無くなったそれを見届けた後、俺の頭には嫌な予感がよぎっていた。
―まさか、ここまで侵食してきているのだろうか。
現在討伐には、SEITSUIを筆頭とした無頼科の連中が中心となって向かっているはずだ。
壱鬼達もそれに混じって向かったようだし、学校の方にまでは襲ってこないだろうと考えていたが―
(しとめ損ねたのが、偶々流れ着いたって辺りか…)
学校の方も、絶対に安全とは言いがたくなってきた状況だと察した俺は、無意識にある人物へとメールを送っていた。
『件名:返事遅くなりました。
――――――――――
水族館の件、ありがとうございます。俺も楽しみにしています。
待ち合わせや時間などは、この騒動が落ち着いたらまた連絡しますね。
それと今、学校の方にまで変なもの達が流れて来ているみたいです。
数は少ないですが、もし生徒や桜花先生の身に何かあったら連絡ください。
すぐに駆けつけますので。』
先ほどの件と同時に、注意を呼びかけた文面を桜花先生に送信する。
「ひとまずはこれでいいかな……さて、と」
ぱちん、と携帯を閉じてそれをポケットにしまう。
息を一つ吸い込み、煙草の煙を吐き出しながら顔を上げた。
俺が見上げたその視界には、今しがた身体ごと消し去った鳥擬きが数体羽ばたいていた。
奇声を発しながら、俺を食らおうとしているのか様子を窺っている。
「…とりあえず、こいつら潰してから中に戻るか…」
まさか言葉が通じるのだろうか。
その鳥に似た生き物共は、ぎゃあぎゃあと更に喧しく騒ぎ立てた。
俺はまた手から靄状の気を発すると、そいつらに向けて挑発してやった。
お前ら相手なんざ、俺一人で十分だ。
人間相手じゃない為、全力で戦っても良さそうだったからだろうか。
本気で戦えることに、久々に身体が疼いていた。
*END*
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