騒動でも動じない人達

2013.06.18.Tuesday



* * * * * *



学校を襲った雷の件、そして現在放送で避難を呼びかける、変なもの出没の警告。

様々な事件が立て続けに起こる中、妖人科の彼らだけは我関せず、といった態度で過ごしていた。







“高位生徒会より緊急警報発令!森学園上空に変なもの出現!一般生徒はシェルターに避難せよ!”



これで二度目の避難勧告の放送である。

しかしこれを聞いた由烏は、溜息交じりに呟いた。



「全く、今日は騒ぎが多いのう…これではゆっくり茶も飲めぬ」



現在彼女は、茶道部の一室である和室で茶をたしなんでいた。

その部屋には他にも彼女の先輩である瞬輝、クラスメイトの笈と唐笠、そして顧問の淡海もいた。



「まあまあ、由烏さん。こんな時はお茶でも飲んで心を落ち着けて、一度冷静になりましょう」



点てた茶を差し出しながらにこやかに話す淡海だが、それを眺めていた笈がすかさず返す。



「と言うか、私達はこんな所で暢気にお茶を飲んでていいんですか?皆さん、放送の通り避難しなくていいんですか!?」



最もなことを言う笈に、ふっと口元に弧を描きながら淡海が訊ねた。



「笈さん。こんな時のための、素敵な言葉…知ってますか?」

「え?い、いえ…」



すると彼は、やや訝しげな表情をしながらもその担任兼顧問の先生の方を見る。

淡海は爽やかな表情のまま、彼に向かってその言葉を口にした―





「“慌てない 慌てない”…」

「思いっきり○休さんのパクリじゃないですか!」

「そうじゃ、先生の言う通りこんな時はまず“慌てない 慌てない”じゃ」

「さあ笈も、一緒に“慌てない 慌てない”を唱えませぬか…?」

「何か変な宗教みたいになってますよ!?何なんですか此処、本当に茶道部ですかー!?」

「…落ち着け笈」



次第に混乱してきている笈に、彼の相棒である唐笠だけが冷静に宥めていた。

すると最初に茶を手にしていた由烏が、隣に座っていた笈にそれを渡しながら言う。



「ま、いざとなれば先生が助けてくれるから大丈夫じゃろ。ほれ、飲んだら次の瞬輝先輩に渡すのじゃ」

「はあ…」



何だか言いくるめられている気がするなぁ、と思いつつ、笈はその椀を受け取る。

そしてその茶を口にした途端、彼の表情がぱっと明るくなった。



「あ、美味しい…!」

「そうじゃろ?先生がこだわって買ってくる茶じゃからのう、味は格別じゃ」

「これで新入部員も増えればと思い、色々努力はしているのですが…そう上手くはいかないものですね」



苦笑いする淡海だが、その表情には何処か諦めの色もあった。

というのも、その理由の一つであることを瞬輝がぽつりと呟く。



「部が出来てからまだ日が経っておりませぬ故…知名度の低さもあるのかと存じます」

「それが一番大きいでしょうねぇ…まあ、時間が経てば少しずつ増えてくれることを祈ってますよ」



困った顔で微笑む淡海だったが、ふと思い出した様にまた表情が一転する。



「ああそういえば。今日の菓子を出すのを忘れていました」

「何か足りぬと思えば、それであったか!先生、うっかりしすぎじゃ」

「はは、すみません」

(外では騒動があるとは思えぬ光景だなぁ…)



淡海と由烏のやりとりを眺めながら、笈は隣の瞬輝に椀を渡した。



「して…今日の菓子は一体何じゃ?」

「ええ、夏なので涼しげに葛餅にしてみましたが…この中で苦手な方はいましたか?」

「おお!わらわは好きじゃぞ、葛餅!」

「私も平気です」

「あたしも問題はありませぬ」

「良かった、では皆さんで頂きましょうか」



ほっと安堵した様子で、淡海は小さい皿に葛餅を載せて、皆に渡した。

嬉しそうにそれを食む由烏、傍らの唐笠と仲良く分けて食べる笈、菓子にはまだ手をつけずに茶の香りを楽しむ瞬輝。

それぞれが思い思いに茶の時間を楽しむ中、淡海は見えないながらも丸窓から外に目を向けてぽつりと呟いた。







「平和ですねぇ…」

「いや、そうでもないんですけどね」



のんびりとした口調で呟いた淡海に、笈がきっぱりと返していた。

しかし外が騒然とする中、この空間だけは確かに、安穏とした空気に包まれていた。



*END*



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