何故か先生VS三人組展開

2013.06.18.Tuesday


雷事件が終結して、青空教室も終えた辺りだと思ってやって下さい。

* * * * * *

学園に混乱を招いた雷の事件も、特殊能力科の三兄弟を主とした活躍により、最悪の事態に陥る前に集結した。

屋上で授業を続行していた妖人科三年も、その事件に決着がつく頃に丁度終え、その担任である白沢は暢気に煙草をふかしながら、中庭の方を歩いていた。



「ふー…この辺も大分被害受けてんなぁ…」



煙を吐きながら、そこから見上げるようにして学校の窓や壁を見渡す。

そうして被害状況を見回っていると、彼の背後から名を呼ぶ者がいた。




「おい白沢ァァ!!」

「ん…なんだお前ら、さっきの授業の質問か?」



白沢が皮肉っぽくそう尋ねると、声の主であった生徒の壱鬼は、顔に憤りを顕わにした状態でずかずかと彼に近付いていった。

そんな彼と同様の様子で、狐乃衛と竜彦も後に続いていた。



「おいてめぇ!あれだけ怪我したりする騒ぎがあったってのに、何で俺達を行かせなかった!?妖人なら頑丈だから、少しくらいは助けになっただろ!」

「おいおい、先生に向かって『てめぇ』呼ばわりかよ…」



俺ってそんなに尊厳ないかねぇ、と苦笑して白沢は一人愚痴る。

しかし壱鬼の怒りは収まる様子はなく、自身の教師のその態度はますます彼を苛立たせた。



「話はぐらかしてんじゃねぇッ!つーか他の生徒は戦ってるってのに、何で俺らは暢気に授業なんかやってんだよ!」

「…と言うか、センセ。わざと俺らを戦いから遠ざけようとしてたでしょ?」

「大概ならば、あの場にいれば加勢を命令すると思いますが…俺も、そこが気になります」



壱鬼の言葉の後に狐乃衛、竜彦がそれぞれ続いた。

すると白沢は、ふうっと長い溜息を吐くと、また煙草を咥えなおして答えを返す。



「…あの場でお前らが、妖術を使わないって保障はあったか?」

「!」



その言葉に、生徒三人はぎくりとした様子で口篭った。

それを見透かした様に、白沢は立て続けに話を続けた。



「屋上には敵味方入り乱れての混戦状態だった。そんな所で妖術なんか使えば、他の生徒だって巻き込む可能性があっただろ?」

「け、けどよ!術なんか使わなくても、単純な力だけでも加勢は…」

「壱鬼。お前そう言うけどな、実習でちゃんと術を扱えた試しがあったか?」

「う…」

「お前は感情が昂ぶると、術も乱雑になって暴走する。そんなお前が一番危なっかしいんだよ」



淡々とした口調でそう述べる白沢だったが、壱鬼の表情はまだ納得がいった様子ではなかった。

むしろ反感を抱いた様子で、ぎり、と奥歯で歯軋りの音を立てていた。

黙った壱鬼に代わる様にして、今度は狐乃衛が質問をぶつける。



「でもそれにしたって、他の生徒が頑張ってるってのに、俺らは見学みたいなのはどうかと…」

「じゃあ逆に聞くが…もしあの場で全員が戦闘に加わったとする。そして瀕死寸前で敵を倒したとしよう。けど、もしその後ろに、また別の敵が控えていたらどうする?」

「え…」

「全滅覚悟で、全員で特攻か?それとも誰か犠牲を出しながら、尻尾巻いて逃げるのか?」

「……」

「…要は、“もしも”に備えての控えは必要ってことだ。今回は偶々俺らがその位置にいたって話だ」



押し黙った狐乃衛を一瞥すると、白沢はまた煙草を吸い込む。

これで納得しただろう、と彼は思いながら、煙をふーと吹いた時だった。





「…そんなんで納得できっかよ!!」

「!!」



とうとう限界を超えてしまった様子で、壱鬼が突然白沢に殴りかかってこようとした。



刹那、彼の黒に染まった爪から焔が揺らめく。

それを媒体にして、瞬時に橙の炎が彼の両手を包んだ。



―発火。

それが、妖怪の鬼の血が流れる、壱鬼の術だった。



「白沢!俺はそうしてウダウダとごたく並べるてめぇが許せねぇッ!!一発殴らせろォォッ!!」

「ったく…これだからガキは…」



憤怒した様子で殴りかかってくる壱鬼だが、白沢は至って冷静に、だがどこか面倒くさそうに頭を掻いていた。

そして焔をまとった壱鬼の握り拳が、彼の教師を目掛けて振りかぶった。



だがその教師は、当たる寸前の所でひょい、と難なくそれをかわす。

と同時に、くるんと身を回転させたかと思うと、壱鬼の腹を目掛けて思い切り蹴りを入れた。



「がはっ…!!」



防御する間もなくそれをまともに受けた壱鬼は、重量を感じさせないくらいに軽々と後方へと吹っ飛んだ。

そして背中から地面へと叩きつけられ、痛みに顔を歪ませる。



「つっ…!」

「壱鬼!」



白沢の言葉を聞いてから考えるように押し黙っていた竜彦が、焦った様子で壱鬼の方に振り返る。

壱鬼は手をついて上体を起こすと、まだ苦しげな表情をしながらも「大丈夫だ」と返した。



それを見ていた狐乃衛だったが、白沢の方に振り向くと、にっと不敵な笑みを口元に浮かべた。



「…確かに壱鬼の言ってることは全然理由になってない、馬鹿丸出しな発言っすけど…」

「オイ狐乃衛てめぇ!?」



狐乃衛の発言に壱鬼が思わず食ってかかったが、彼は構わず話を進めた。



「けど、やっぱり俺らは待ってるだけじゃ納得いかないんすよね。どうしても血が騒ぐっつーか…まあ、そんな訳で俺も一発殴らしてください」

「おう、来い来い。全力で相手してやるから」

「じゃ、遠慮なくっ…!」



右手を手前に引っ張る様に招く白沢に、今度は狐乃衛が攻撃をけしかける。

すばやい動きで距離を詰めながら、彼はポケットに手を入れた。

そこから木の葉を数枚取り出すと、それらに気を流し込んで手裏剣に変化させた。



「よっ!」

「!っと…!」



変化した手裏剣がひゅん、と白沢の頬を掠めて行く。

彼がそちらに一瞬気を取られたその刹那に、狐乃衛はぐっと間合いを詰めた。



そしてたん、と軽やかな音を立てて飛び上がると、もらったと言わんばかりに白沢の上から襲い掛かった。



「っしゃあ!食らえ、必!殺…!」




少々焦った表情を浮かべる白沢と、後方でおおっとどよめく壱鬼と竜彦。

そして狐乃衛はぼんっ、と音と同時に白い煙幕に包まれたかと思うと―





「お色気の術ぅ!!」

「「NA○UTOのパクリかよ!?!?」」

「お…」



色っぽい女性に変化していた。

それと同時に後方の二人から息ぴったりな突っ込みが入る。

そして白沢はと言うと、「いいものを見た」といった表情で思わず反撃の手を止めようとしていた。



しかしそれに動揺した様子は殆どなく、変化した狐乃衛の手首を素早く掴む。

と同時に、白沢のその手からは白い靄が湧き上がった。



途端、またぼんっと音を立てて狐乃衛の変化が解ける。

手首を掴まれていた狐乃衛はそのまま、すたんと白沢の前に着地した。



「あ、やっべ…」

「狐乃衛、お前の変化の術は揺動にはもってこいだが…今一つ、攻撃力が欠けるな」

「はは、ど、ドーモ…」

(ま、変化したのが桜花先生だったらちょっとヤバかったかもしれんが…)



手首をしっかり掴んだままの白沢を前に、狐乃衛は冷や汗をだらだら流しながらぎこちない返事をした。

が、教師に挑んだ過去は戻せず、そうして彼は―



「はい、ごくろー、さんっ!」

「どわぁッ!?!?」



そのまま、一本背負いをくらった。

どたっという音と共に、地面に振動が走る。



「いっ…!せ、背骨!背骨がっ…!!」

「で…竜彦、お前はどうする?一応俺に挑んどくか?」



地面で悶える狐乃衛に一切同情も心配もする様子もなく、白沢はくるりと竜彦の方へと向き直る。

しかし竜彦は、ふるふると頭を横に振った。



「俺はまだ、術も使えないので遠慮しておきます。…それに、先ほどの先生の理由にも納得しましたし」

「そうか、なら良かった。まあ術の方はこれからだ。むしろ入学した当初から、術が使えたこいつらの方が珍しいくらいだしな」



言いながら、白沢は壱鬼と狐乃衛をそれぞれ一瞥した。



「…何だよ、珍獣見るみてーな目向けてんじゃねぇよ白沢ぁ」

「つーか竜彦、お前だけ無傷なんてずりーぞー…」



地面に横たわったままの二人が、それぞれ力なく文句を口にする。

そんな生徒達の様を、白沢は苦笑しながら短くなった煙草を携帯灰皿に押し込もうとした時だった。







『高位生徒会より緊急警報発令!森学園上空に変なもの出現!一般生徒はシェルターに避難せよ!SAYTSUI軍は直ちに迎撃に移れ!』



校内全体に響き渡るように、警告の放送がかかった。



「…そらみたことか。予想外の事態はこうして突然くるもんだ」

「「………」」



白沢の言葉に、生徒約二名は気まずそうに顔を逸らしながら沈黙した。

しかし教師のその人物は、煙草を携帯灰皿にぎゅっと押し込みながら話を続けた。



「さて、現状を整理すると…特殊能力科の三兄弟は負傷、SAYTSUIのいる無頼科は動けるものの、連戦で大分疲弊してると思われる。その他の戦闘能力のある生徒達も、幾らか負傷及び疲弊の可能性がある…となると、ここは“控え”が出るべきだろうな」

「「!」」



その言葉に、三人が反応した。

「じゃあ…!」と壱鬼が嬉々とした様子で訊ねると、白沢は「ああ」と返事をする。



「今度は学校内と違って広いだろうし、他の生徒を巻き込む心配もまあ、ないだろ。思う存分戦ってこい」

「しゃあーっ!!やる気湧いてきたぜ!!」

「つーか偶々偶然に変なのが湧いただけでしょ…別にセンセの手柄じゃないじゃん…」

「まあ狐乃衛、そう文句を言うな」

「よし、お前ら…一度俺の前で正座!」

「「は!?」」



そうして討伐に向かおうとする生徒三人に、白沢は突然正座を命じた。

しかし三人は渋々ながらも、素直に教師の前に座る。



「くれぐれも他の生徒巻き込むなよ?そんな事したら、“妖人”の名に泥を塗るはめになるからな」

「へーい」

「分かってるって」

「押忍」


「竜彦だけが返事が宜しい…ま、とにかくお前ら、怪我しない程度に頑張れよ!」

「どわっ!?」

「ちょ、先生髪乱れるー!」

「………」



教師の彼は、言い終わるや否や三人の頭をがしがしと乱雑に撫で回した。

嫌そうな表情を浮かべる生徒達だったが、先生だけは対照的に明るい笑顔だった。





そうして壱鬼、狐乃衛、竜彦らは援護するために、敵が湧いて出た方へと向かった。

残った白沢は、また中庭をゆったりとした足取りで歩き出した。



雷の止んだ上空を仰ぎながら、ぽつりと独り言を洩らす。



「…あいつらも、強くなったな」



それはまるで、長年成長を見守ってきた親の様な、感慨深い口調であった。



*END*



* * * * * *

竜彦はまだ術使えません。

最近になって、ようやく気をコントロールして腕に何故か鱗が浮かび上がる程度の進み具合という状態

21:06|comment(0)

BACK


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -